ディープラーニングを超える――富士通研究所の「Deep Tensor」は世界に通用するかWeekly Memo(2/2 ページ)

» 2016年10月24日 12時30分 公開
[松岡功ITmedia]
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従来のディープラーニングを超えた「Deep Tensor」

 そこで、富士通研究所は今回の説明会を機に、人やモノのつながりを表現する「グラフ構造」のデータを高精度に解析できる機械学習技術「Deep Tensor(ディープテンソル)」を開発したと発表。16件の最新技術の1つとして展示・実演も行った。(図3)

Photo 図3 展示コーナーにおける「Deep Tensor」の説明

 Deep Tensorは、画像や音声では極めて高い認識精度を達成している既存のディープラーニング技術を、グラフ構造のデータにまで適用できるようにした新技術である。これがすなわち、未知の知の獲得だけでなく、既存知の構造化にも対応した技術となり得るのである。

 Deep Tensorについて説明した同社 知識情報処理研究所 人工知能研究センター長の岡本青史氏は、「グラフ構造のデータは構造が複雑であり、大きさや表現方法など多様なデータが混在しているが、最先端の数学を活用して“テンソル”と呼ばれる統一的表現に変換することで、Deep Learning技術を用いてグラフ構造のデータを高精度に学習することができるようになる」と解説した。ちなみにテンソルとは、行列やベクトルなどの概念を一般化した、多次元の配列で表現したデータのことである。

 この新しいDeep Learning技術により、コンピュータやIoT(Internet of Things)機器などの通信ログ、Fintechにおける金融取引、創薬における化学組成など、幅広い分野において、グラフ構造で表現できるデータを活用して新たな解析ができるようになるとしている。岡本氏によると、2017年度上期までにZinraiの新しいサービスとして実用化を目指しているという。

 こうした説明を聞いた上で、筆者は説明会の質疑応答で「AI技術において、富士通をはじめ日本のITベンダーは米国勢の後塵を拝しているといわれるが、どのように認識しているか。また、後れを取っているとすれば、今回発表された新技術などで巻き返すことができるか」と聞いてみた。

 これに対し、佐々木氏は「アピールの仕方において若干後れを取っていることは認めざるを得ない。だが、技術水準では後れを取っているとは思っていない。例えば今回発表したDeep Tensorなどはまだ世の中に存在しておらず、まさしく最先端の技術だ。しかもこの技術が実現する既存知の構造化については、当社はおよそ20年前から技術を蓄積してきており、他社を大きくリードしている」と答えた。

 また、岡本氏は「AI技術の活用が今後ますます広がっていくかどうかは、グラフ構造のデータをどう扱っていくかがカギになると考えている」との見解を示した。

 富士通研究所が今回打ち出したDeep Tensorは、果たして世界に通用するものとなるか。そのポテンシャルは十分にありそうだが、佐々木氏が語ったように「アピールの仕方」をもっと工夫すべきだろう。それは単にPR活動だけでなく、ビジネスの進め方そのものの問題である。

 この点は富士通に限らず、日本のITベンダー全てにいえることだ。今後、IT分野の中枢となるAIで世界に存在感を示せないと、日本のIT産業は衰退の一途をたどっていくのではないかと筆者は憂慮する。是非とも強い危機感を持って挑んでもらいたいところである。

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