電通のグローバルCMO調査から探る「マーケティングはAIでどう変わるか」Weekly Memo

マーケティングにAIを活用し、ビジネスをどう競争優位に進めるか。電通グループが企業のCMO(最高マーケティング責任者)を対象に実施したグローバル調査から探る。

» 2026年01月19日 14時00分 公開
[松岡 功ITmedia]

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 AIが企業のビジネスに競争優位をもたらす分野として注目されるのが、マーケティングだ。企業におけるその責任者であるCMO(最高マーケティング責任者)に対し、マーケティングとAIの今後の関係性について調査した結果を、電通グループ(以下、電通)が発表した。その内容が興味深かったので、筆者が特に注目した点を挙げて考察したい。

マーケティングにおける「10の主要テーマ」とは?

 電通は2025年12月26日、日本を含む世界の主要14市場における企業のCMOなどマーケティングに関する責任者1950人を対象とした「CMO調査レポート2025(日本語版)」(注1)を発表した。年次レポートとして6回目となる今回の調査では、「アルゴリズムと自律エージェント型AI(エージェンティックAI)が席巻する時代において、これまで以上に高まる人間性の価値とAIの融合を目指すCMOの姿が浮き彫りになっている」とのことだ。

 同レポートでは今回の調査結果から、今後のマーケティングにおける主要テーマを10個挙げ、「ブランド(企業)とビジネスの持続的成長のための提言」として以下のように示している。

1. アルゴリズムを先読みする

 アルゴリズムで成功することは、トレンドに追随するのではなく先導することを意味する。最新のミーム(*)や流行を追いかけるだけでは効果は次第に減少し、コストは上昇し、認知度も低下してしまう。71%のCMOが「アルゴリズムで勝てなければ存在感を失う」と考えている一方で、79%が「アルゴリズムの最適化を優先しすぎると、似たようなコンテンツばかりになってしまう」とも感じている。

* ミームとは「面白い画像や動画がネットで拡散される文化」を指す。

2. 共感へ投資する

 一見、逆説的だが、アルゴリズムで成果を上げる鍵となるのは人間らしさだ。人と人との間でしか生まれないインサイトが共感を生み、常識にとらわれない発想がイノベーションを生み出すことで、重要な差別化が実現する。86%のCMOが「AI主導の世界では、実際の顧客の声に耳を傾けることがこれまで以上に重要である」と回答しており、さらに87%が「現代の戦略には、より高い創造性、共感力、そして人間性が求められる」と考えている(図1)。

図1 主要テーマ2に関する調査結果(出典:電通グループ「CMO調査レポート2025(日本語版)」

3. アイデアでつなげる

 今日、ブランドは共創によって成り立つべきであると考えるCMOが圧倒的多数だ。91%が「今後のブランド構築はブランドやクリエイター、プラットフォームによるパートナーシップによって行われる」(前年比14ポイント増)と回答しており、87%が「コミュニティーとのエンゲージメントは、ブランドインパクトを拡大させる強力な手段である」と考えている。一方で、82%がコントロールを手放すことを懸念しており、この割合は前年から22ポイント増加している。

4. インフルエンサー投資が結果を分ける

 共創の重要性を踏まえると、CMOがインフルエンサーへの投資を大幅に増やす計画を立て、インフルエンサーコンテンツが可視性やコンバージョンを高める上で果たす役割を戦略的に捉えているのは当然といえる。90%のCMOが「ソーシャルメディアとインフルエンサーコンテンツは従来型広告よりも高いエンゲージメントを生む」と考えており、39%が今後ソーシャルメディアとインフルエンサーマーケティングに予算の20〜30%を投資する計画を立てている。

5. カルチャーとの間のジレンマ

 多くのマーケターは直感的に「現代のブランド構築はカルチャーを通じて行われる」と認識しているものの、それを継続的かつグローバル規模で実行できると確信している人は多くない。81%のCMOが「これからの時代はカルチャーを通じたブランド構築が重要だが、その具体的な手法についての成功例がまだ十分に存在しない」と回答しており、40%が「自社ブランドがどのように、またどの分野でカルチャーと信頼性をもって結び付くべきかを見極めることは大きな課題である」と感じている。

6. イノベーションの必然性

 これまで実証されてきた手法の効果が薄れる中、イノベーションはもはや「あれば良いもの」ではなく「不可欠なもの」となっている。マーケターの40%が2025年および2026年のマーケティング予算のうち、20〜30%をイノベーションに割り当てる計画を立てている。また、変化のスピードが加速し続ける現代において、90%が「イノベーションはサイドプロジェクトとしてではなく、最も差し迫ったビジネス課題解決に向けて実施すべきだ」と考えている。

7. AIと共に働く時代

 AIは既にCMOたちの日常業務に欠かせない存在となっている。今日、ほとんどのCMOが、リサーチの要約やコピーの草稿、思考の整理などのワークフローでAIを取り入れ、そのうち30%以上が日常的に活用している。こうした状況は、エージェンシーの内部プロセスの透明性に関心を深め、料金モデルに関する新たな議論を生んでいる。同時に、AIと人間のクラフトやクリエイティビティに対する認識をも急速に変えつつある(図2)。

図2 主要テーマ7に関する調査結果1(出典:電通グループ「CMO調査レポート2025(日本語版)」

8.人間らしい体験とは

 マーケターが従来のチャネルでの顧客との接触に自信を低下させる今だからこそ、体験はブランド構築の鍵となる。たとえ未来の体験が現在とは大きく異なろうとも、その重要性は変わらない。CMOの86%が「現代のブランドは体験によって築かれる」と答える一方、興味深いことに73%が「AIによってブランド体験が薄れるかもしれない」と懸念している。知的なパーソナライゼーションと革新的な新インタフェースが、クリエイティブなブランド体験を生み出す重要な鍵になると考えられている。

9.賢くつながるコンテンツへ

 単なるスケールの追求は、もはや魅力を失いつつある。現代のCMOが求めているのは、効率と効果のバランスを取り、カスタマージャーニーを軸としたダイナミックで適合性の高いコンテンツを、適切なタイミングで適切なメッセージとして届けることだ。しかし、世界のCMOの78%が「コンテンツ制作数は増えているものの、その影響力は低下している」と懸念している。そして、CMOは、カスタマージャーニーや業務変革を深く理解している戦略的制作パートナーを求めている。

10.センスを信じよう

 CMOは自律エージェント型AIがカスタマーエクスペリエンスとパーソナライゼーションに飛躍的な進歩をもたらすと予測する一方、信頼とセンス、ブランド選好がこれまで以上に重要になると考えている。CMOの89%が「自律エージェント型AIの時代には信頼とセンスがかつてないほど重要になる」と回答しており、90%が「ブランドが消費者の“買い物かご”に残り続けるためには、強いブランド選好が欠かせない」と認識している(図3)。

図3 主要テーマ10に関する調査結果(出典:電通グループ「CMO調査レポート2025(日本語版)」

プロのマーケターに期待したい主体的なAI活用

 以上が、今回の調査結果から、今後のマーケティングにおいて電通が挙げた主要テーマと提言の概要である。この中でAIとの関係性について述べているのは、2、7、10番目だが、筆者は特に7番目の「AIと共に働く時代」において上記の概要にはないレポートの詳報の中から図4に注目した。

図4 主要テーマ7に関する調査結果2(出典:電通グループ「CMO調査レポート2025(日本語版)」

 この図は、「顧客は人間の手による商品やサービスにはプレミアムを払う」「生成AIは人の心を動かすものは創造できない」「生成AIは決して人間の創造力にとって代わることはできない」といった点にCMOが同意した割合の推移を示したグラフだ。この結果について、電通は次のように分析している。

 「AIの普及に伴い、2024年にはこれらの割合は2023年と比べて大きく後退したが、2025年に再浮上したのは『人間性こそが新たな可能性を開き、感動を生むコンテンツを生み出す』という信念だ。同様に、81%のCMOが『顧客は人間の手による商品やサービスにはプレミアムを払う』と答えている」

 「なぜ、このような揺り戻しが起きたのか。その理由を完全に説明するのは難しいが、AIという速すぎる技術進化と強い感情の交差点では、人々の態度が劇的に変化するといえる。2023年、AIは既に驚くべき進歩を見せていたが、バグがまだ残っていた。2024年にはエンタープライズ品質の画像生成が実現し、CMOたちは『何ができるか』を具体的に理解できるようになった」

 「そして2025年。AIによる画像生成技術は飛躍的に進化した。しかし、マーケターたちは『この成果物は人の心に届いているだろうか』と再び問い始めている。この“感情のズレ”がどれほど早く埋まるのか。次の動向が注目される」

 筆者はこの調査結果に、マーケターの主体性を感じた。主体性こそが、人間とAIの関係性におけるこれからの最大のキーワードになるのではないか。上記の分析にもあるように、マーケティングの勘所は「実施するアクションが人の心に届いているかどうか」だ。それを判断するのはあくまでも人間であるべきだ。ただ、その戦略や戦術、制作物などの品質を高めるためにAIを最大限活用したいところだ。従って、人間はAIを活用するための技能も高める必要がある。

 端的にいうと、「プロのマーケターになれ」と。その上で、さらにマーケターに期待したいのは「人間が業務にAIを活用する際のモデルケースになってほしい」ということだ。その意図は、AI活用によって業務を効率化するだけでなく、ビジネスを競争優位に進めることにある。マーケティングはその中核となる業務だ。そこに経営判断として確信が持てれば、AI関連投資は地に足が着いた形でバブルの心配なく動き出すのではないか。その意味で、今回話題に上げたマーケティングとAIの関係性の動きについては引き続き注視したい。

(注1)主要14市場における企業のCMOなどマーケティングに関する責任者1950人を対象とした「CMO調査レポート2025(日本語版)

著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功

フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。

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