機械学習といった高まる需要から、パブリッククラウド上の仮想マシンでもGPUが求められるようになった。今回は、先日開催された日本国内での「Microsoft Azure NV シリーズ」のローンチイベントからGPUの必要性を考察する。
基幹システムや業務システムをオンプレミスサーバで運用しながら、クラウド移行のタイミングを探っている企業のIT担当者向けに、Microsoftのパブリッククラウド「Microsoft Azure」を活用する際のポイントや事例を紹介する。
仮想マシン上でGPUを利用するシナリオは決して新しいものではない。オフィスなどで利用する仮想環境でも、仮想マシンからホストマシンのGPUへアクセスするGPUパススルーは以前から利用されてきた。技術的アプローチに違いはあるものの、クラウド上の仮想マシンからGPUにアクセスするのも基本的には同じである。
本来は画像処理に特化したプロセッサであるGPUが注目されるのは、CPUに比べて大量のデータを複数のプロセッサで同時に並列処理できるからだ。
一般的にはGPGPU(GPUによる汎用計算)と呼ばれ、2000年代以降はコンピュータの性能指標であるFLOPSから見てもCPUを上回っている。そのため、GPUベンダーも、NVIDIAのCUDA(Compute Unified Device Architecture)やAMD Stream/APP(Accelerated Parallel Processing)などの技術を確立させてきた。
現在は、AI(人工知能)ベースの機械学習や、そのトレーニング材料となるビッグデータの時代である。特に深層学習では、コンピュータの性能が演算結果を大きく左右するため、GPUが現在の深層学習環境を大きく支えていると述べても過言ではない。
しかし、専用のコンピュータをゼロから組み上げるのは開発者にとって大きな負担となる。そのため、アジャイル開発におけるシステムテストレベルであれば、クラウド上のGPU対応仮想マシンを使った方が、手間もコスト的にもメリットが大きい。
例えばAWS(Amazon Web Services)のP2最安値モデルにあたる「p2.xlarge」インスタンスは、1.542ドル/時(オンデマンドインスタンス)。同様に、「Microsoft Azure NVシリーズ」の最安値モデル「NV6」インスタンスも162.18円/時と百数十円程度だ。
GPUに対応した仮想マシンの可能性は多岐にわたる。前述した深層学習などトレーニングに加えて、金融工学、耐震解析といった演算処理、3Dアプリケーションのレンダリング、GPU性能を必要とするアプリケーションのVDI(仮想デスクトップインフラストラクチャ)など、その幅は広い。そのため、日本マイクロソフトも「Nシリーズ」をアピールし、今回のようにNVシリーズのローンチを祝うユーザーイベントを共同開催したのだろう。
6月2日に開催された「Japan Azure NV シリーズ ローンチイベント」では、日本マイクロソフトとエヌビディアが主催者に名を連ねていた。日本マイクロソフト クラウド&エンタープライズビジネス本部 クラウドプラットフォーム製品マーケティング部 部長の斉藤泰行氏によれば、日本おけるNシリーズの需要は世界的にみると「圧倒的な第2位」だという。もちろん第1位は米国だ。「日本ではNVIDIA GPUの期待が高いため、『Tesla P100』を採用した『NCv2シリーズ』も日本の顧客に提供したい」と述べていた。
Microsoft AzureとNVIDIA GPUに関する詳細な説明を行ったのは、日本マイクロソフト パートナーセールス統括本部 インテリジェンスクラウドテクノロジー本部 テクノロジーソリューションプロフェッショナルの高添修氏。現在、GPUに対応する仮想マシンとしてはNC/NV/ND/NCv2シリーズを発表し、東西の日本リージョンで利用できるのは、執筆時点でNVシリーズのみ。RDMA(リモートダイレクトメモリアクセス)ベースでネットワーク処理を加速化させた「NC24r」を含む「NCシリーズ」は、日本はもちろん、アジア太平洋地域には未展開である。
そして、GPUとして「Tesla M60」を採用したNVシリーズは現在、東日本リージョンで利用可能。後に行われた他国リージョンと東日本リージョンの遅延差を示すデモンストレーションでは、目に見える違いがあった。高添氏は「GPUを2枚差しにしたワークステーションを手元で動かしている世界」と同シリーズを称している。
NC/NVシリーズは、「Windows Server 2016 Hyper-V」で導入したPCIeデバイスをパススルーするDDA(Discrete Device Assignment)を用いて、ベアメタルサーバに匹敵するパフォーマンスを引き出している。高添氏によれば、構造はストレージパススルーと同じだが、DDA経由の方がより速い結果を得られるという。
同氏は「NVシリーズは3D CADに限定せず、3Dデザイナーやデスクトップシミュレーター、ゲーマーなど多様なシナリオを想定している」と述べつつ、実際にPCゲームをプレイするデモンストレーションを披露。コンピュータの在り方に依存しない使い方が広まれば、医療など、新しいソリューションにも通用できそうだ。
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