時給650円のバイトが教えてくれた「働きがい」のある職場の条件榊巻亮の『ブレイクスルー備忘録』(1/4 ページ)

社員がいきいきと働ける職場職場をつくるには、何が必要なのか? そのヒントは、学生時代のファストフードのバイトの経験の中にあった。いったい、バイトの現場で何が起こっていたのだろうか。

» 2017年08月08日 07時00分 公開
[榊巻亮ITmedia]

この記事は榊巻亮氏のブログ「榊巻亮の『ブレイクスルー備忘録』」より転載、編集しています。


 働き方改革が叫ばれる中、企業は社員がいきいきと働ける環境を作りたくて四苦八苦している。そんなおり、ご縁があって、ネッツトヨタ南国の横田英毅さんと元ソニー上席常務の天下伺朗さんのセミナーにお邪魔する機会があった。横田さんがどれだけ人に軸足を置いた経営をしているのかは著書を読んで知っていたが、生で聞くとより面白かった。

 横田さんは、「金銭的な報酬や地位、評価を与えても、一時的な満足しか引き出せない」「幸せに働くには、認められ、必要とされ、感謝され、自由にチャレンジできる環境が必要だ」とおっしゃっていた。そして、「利己的に満足を求めると、幸せは遠ざかる。利他的であれ」と。

 とても良く分かる。金銭や物的な欲求は、満たされると、次が欲しくなる。際限がなくなる。それよりずっと大事なものがあり、そこがうまくいけば長くいきいきと働ける。

 2人の話を聞きながら、この感覚をずっと昔に経験していたことに気が付いた。高校、大学時代にファストフードチェーンのマクドナルドでアルバイトをしていたときのことだ。金銭以外の目的でいきいきと働くということについての僕の原体験はここにあったのだ。

 当時、どんな状況で働いていたのか、何がいきいきとした職場を生み出していたのか、そのあたりの話をしてみようと思う。

千葉の片田舎のマクドナルドで何が起こったのか

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 かれこれ20年も前の話。千葉の片田舎のごく小さいマクドナルド(直営ではなく、オーナーがやっているフランチャイズだった)でバイトをしていた。そこは、やたらと働きがいのある職場で、みんながいきいきと働いていた。

 当時のバイト仲間は20年たった今、ビジネスの世界で大活躍している。三菱商事の課長、キーエンスの営業部長、マレーシアで事業を展開している社長、コンサルティングファームのディレクター、税理士、一級建築士、気球屋さんなどだ。みんながそろいもそろって、何と活躍していることか。

 当時、いきいきと働く楽しさを知ることができたからこそ、社会に出ても活躍しているのかもしれない、と思う。

 当時を振り返ってみると、いろいろと驚くことがある。バイト代は、当時の世の中の最低時給である650円だった。今では考えられない低賃金だが、仲間たちは毎日バイト先に入り浸って、自発的にいろいろな仕事をしていた。とても仕事を楽しんでいた。

みんながいきいき働いていた職場の様子とは

 当時のバイト先はどんな職場環境だったのか。思い出しながら、当時の状況を書いてみる。

みんなが、“自分の得意な領域”を持っていた

 マックには、実にさまざまな仕事があった。ポテター、ドレス、バンズ、PC、フライヤー、カウンター、シンク、メンテ、フィフタリング、グリスト……。挙げるとキリがない。

 さまざまな仕事がある中、それぞれが「この仕事が好きだ!」「この仕事なら負けない」という領域を持っていた。活躍できる領域があったのだ。こだわりの領域といってもよい。

 ポテトが得意なやつ、シンクが得意なやつ、バンズが好きなやつ――それぞれが互いに認め合っていて、「ポテトといえばやっぱり豊だよなー」「ドレスのスピードは亮よね」なんて会話が出てくる。マックに入りたてのメンバーは「豊さん、ポテトのコツ教えてくださいよ。一発でピシャリと入れてくるなんて信じられないっす」なんて言っていた。

 「ごみ搬」というごみ出しの仕事ですら、1回にどのくらいの量を出せるかを競っていたものだ。普通は汚い、臭いといわれるような仕事でさえ、こだわりを持ってやっているやつがいた。「どうやって楽しもうか、より良くしようか」ということを考えてやっているやつがいたのだ。だから、「アレだけ大量にごみがあったのに、たった2往復? すごいじゃん!」なんて会話も自然に生まれていた。

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 また、シンクのグリストラップ(油を除去する排水口)の掃除が毎週あったのだが、それがまぁ汚い……そして臭い。そんな仕事でも、こだわっているやつがいた。しかも歴代グリストラップの番人みたいな人までいたのだ。「この仕事をいい加減にやると、油が詰まって営業中に洪水になるんだ。ちゃんと奥まで手を突っ込んで、ここまで油をかき出さないとダメなんだ!」と。

 まぁ、周りの仲間は、やりたくないからお任せしていた。でも、グリストの仕事を見下していたわけではなく、「その仕事は好きじゃないけど、その仕事の大事さは分かる。そしてその仕事を誰よりもプロとして完璧にこなす飯田さん、すげーよな。こだわり過ぎてウケるけど(笑)」という感じで見ていた。

 つまり、異なる価値観を持ってこだわって働く仲間に敬意を払っていた。そして、こだわって働くことを、みんな、楽しんでいたのだと思う。

 ちなみに僕は、店を閉める仕事(クロージング)の徹底した効率化にこだわっていた。お客さんへのサービスクオリティーは落とさずに、どうやって素早く店を閉められるか。クロージングが早く終われば、店を閉めているチームは早くバイトから解放されるからだ。「今日の終了目標は22時10分にしよう!」なんて言って、しょっちゅうみんなでチャレンジしていた。

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