やる気のない日本人上司に失望しました現地からお届け!中国オフショア最新事情(9)(3/3 ページ)

» 2007年09月12日 12時00分 公開
[幸地司,アイコーチ有限会社]
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オフショア無気力組に活力を与える3ステップ

 これまでオフショア開発フォーラム会員の声を紹介してきたので、ここからは筆者の見解を述べます。

 日本人の上司に失望感を隠せないという相談者の中国人からの相談ですが、どのように回答すればよいのでしょうか。最初から転職する気なら筆者などに相談せず、さっさと会社を見切って動いているはずですので、理想的な回答案としては、日本企業の特性を踏まえつつ、会社で上手に立ち振る舞うための現実的なアドバイスがふさわしいと思います。

 憶測にすぎませんが、相談者の会社のトップはやる気満々に違いありません。ところが、相談者の上司に当たる中間管理職の本気度が足りません。これで、「オフショア抵抗勢力」に加えて、「オフショア無気力組」という新たなカテゴリが追加されました。

 前者は、政治家の派閥争いよろしく積極的にオフショア推進に反対する人々。後者は、日常業務に忙殺されて、オフショア開発推進にまったく無関心、あるいは無気力な人々を指します。

ALT 上海の高層ビルの多さはマンハッタンを彷彿とさせる

 どちらも、オフショア推進の障害となる点では共通する存在です。会社の規模が大きくなればなるほど、担当者のモチベーション向上こそがオフショア推進の成功の鍵を握ります。具体的には、30代〜40代の働き盛り社員のモチベーション低下が常に問題視されています。一般的に、日本企業のオフショア推進派は全体の2割程度しかいません。中国と聞いただけで、猛烈に拒否反応を示す社員も少なくないといいます。

 では、社内のオフショア無気力組に活力を与えるにはどうすればよいのでしょうか。特にオフショア推進に消極的な、現場のプロジェクトマネージャ層を動かすすべを考えてみましょう。1つ目は、事実と数字を使って論理的に説得する方法。いわゆる、左脳的なアプローチです。

 次いで、喫煙室や居酒屋、コーヒーショップなどで心情的に働き掛けて納得させる方法、すなわち右脳的なアプローチも思い付きます。筆者は、人材マネジメントの要諦(ようてい)である人事評価の仕組みに着目して、左脳的なアプローチと右脳的なアプローチを統合する方式を提案します。

第1ステップ

 上司との目標面談シートに、オフショア開発に関する評価項目を設けます。いきなり人事評価制度にメスが入れられない場合でも、部門ごとの自主運用から始めるのです。人事部に働き掛けて、できるだけ早めに(2年以内に)、会社としてオフショア開発従事者の評価制度を確立します。次いで、オフショア開発に向き/不向きを見極める適性検査のアルゴリズムを構築します。

第2ステップ

 適性ある社員に対して、目標設定と評価の権限を本人に委譲します。適性のない社員はオフショア開発にアサインしません。プロジェクト目標(QCD)以外に、将来価値を生み出す行動を評価する仕組みを確立します。

 つまり、社員の過去の成果だけではなく、将来価値に投資する評価制度へ移行します。そして、人事部に働き掛け、オフショア開発コーディネーターのキャリアパスを築きます。可能であれば、オフショア開発向けの社内資格制度を設けて、オフショア開発従事者の居場所を確保します。

第3ステップ

 社内にオフショア開発コミュニティを形成して、経験者から初心者にノウハウや知恵が伝承される仕組みを構築します。社内にこうした刺激の場を提供することは、上昇志向の強い人にとって、特に強い動機付け要因となります。

 今回の相談者は、日本滞在がわずか1年しかない中国人です。しかも役職のない一般社員の立場で日本人上司と対立してしまいました。日本企業の特殊性を無視するわけにはいきませんが、可能性がある限り、相談者にはいまの組織で頑張ってもらいたいと思います。

 筆者は、安易な転職はキャリア開発に役立たないと信じています。それは、終身雇用や根性論を支持するからではなく、国際舞台で活躍する優秀なオフショア人材となるには、異文化間の対立に耐えて、問題が発生しても長期的な視点から解決に導こうとする姿勢が絶対に欠かせないと信じているからです。

 この能力こそ、異文化コミュニケーションがいや応なしに求められるオフショアリング全盛時代に大切にはぐくみたい大事な人材要件です。

 なお、筆者は2007年10月に、本連載で紹介した事例やノウハウを体系化したオフショア開発コーディネート知識体系を学ぶ研修プログラム「オフショア大學」を開講します。この連載で紹介した内容もカリキュラムに反映されていますので、より詳しい情報を知りたい方は、お気軽に筆者までご連絡ください。

筆者プロフィール

幸地 司(こうち つかさ)

琉球大学非常勤講師

オフショア開発フォーラム 代表

アイコーチ有限会社 代表取締役

沖縄生まれ。

九州大学大学院修了。株式会社リコーで画像技術の研究開発に従事、中国系ベンチャー企業のコンサルティング部門マネージャ職を経て、2003年にアイコーチ有限会社を設立。現在はオフショア開発フォーラム代表を兼任する。日本唯一の中国オフショア開発専門コンサルタントとして、ベンダや顧客企業の戦略策定段階から中国プロジェクトに参画。技術力に裏付けられた実践指導もさることながら、言葉や文化の違いを吸収してプロジェクト全体を最適化する調整手腕にも定評あり。日刊メールマガジン「中国ビジネス入門〜失敗しない対中交渉〜」の執筆を手掛ける傍ら、東京・大阪・名古屋・上海を中心にセミナー活動をこなす。


オフショア開発フォーラムhttp://www.1offshoring.com/

アイコーチ有限会社http://www.ai-coach.com/



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