過剰接待をしなくてもオフショア開発で生き残る方法現地からお届け!中国オフショア最新事情(12)(4/4 ページ)

» 2008年07月11日 12時00分 公開
[幸地司,アイコーチ株式会社]
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マネジメント上の課題を指摘する

 業界標準であるPMBOKを参考にした独自の開発プロセスを駆使した取り組みは、とても興味深いと思います。営業や過剰接待にうつつを抜かす他社とは異なり、中国人総経理が技術トップを兼ねるため、品質に対する意識の高さもこちらが舌を巻くばかりです。

 最後の締めとして公平さを期すために、インタビューを掲載するだけでなく、インタビュー企業にとって耳の痛い話もしたいと思います。本稿では、インタビューと称して特定企業を褒めちぎるちょうちん記事を垂れ流すことはありません。ここから最後までは、あなたも意識を変えて読み進めてください。

 本インタビューでは、忘れてはならない制約条件が2つあります。

 1つ目は、紹介した取り組み(TPMS)は発展途上の未完成品であり、決して万能ではないということです。実際、TPMSは社員数50人未満の状態での運用がほとんどでした。そのため、TPMSが大規模プロジェクトにも耐え得るかどうかはまったくの未知数です。同社は、今年に入って要員規模を一気に5倍以上も拡大させましたが、TPMSが正しく運用されるかどうかは誰にも分かりません。いくらきれいごとを並べて、未来の夢物語を語っても無意味です。TPMSが大規模プロジェクトでも通用するかどうかは、あくまでも実績で示すしかありません。

 2つ目は、今年新設した河南省開発センターに関する制約条件です。同開発センターには現在180人のプログラマ集団が在籍しますが、彼らのすべてが稼働しているわけではありません。すなわち、会社として180人の技術者をマネジメントした経験を持つわけではなく、実質的にはバブルのように膨らんだグループ人員規模は一瞬のうちに縮んでしまいます。これが、急成長を続ける中国オフショア開発ベンダの裏の顔です。私の指摘に対して、高総経理は次のようにコメントしました。

 私どもは過去にバブルのように急成長し、堕落していった数多くの中国企業を目の当たりにしているため、これらの企業を反面教師にしています。彼らと同じ二の舞にはならないようにと、かなり以前から考えていました。一気に180人増員したからといって、すぐに180人分の仕事を受注しなくても問題ありません。過去数年、上海に派遣されOJTでTPMSを学んだ河南省のキーパーソン数人と、上海から河南省に派遣するリーダークラスの人材とで、河南省開発センター全体にTPMSを浸透させます。もちろん私や、プロジェクト管理総括責任者(もう1人の中国人役員)も定期的に指導、チェックしにいきます。

 こちらも「お手並み拝見」といったところでしょうか。結果が出るのは早くても1年後でしょうから、可能性ではなく実績で評価したいと思います。

 私たちは、中国ベンダがときどき主張する「中国No.1」や「規模拡大うんぬん」を真に受ける必要はありません。実態を大きく見せる中国式のリップサービスだと解釈して軽く受け流すくらいでちょうどよいでしょう。この程度で、無慈悲に中国批判を繰り返すほどやぼなことはありません。

 とはいいながらも、これまでの中国は日本人の想像をはるかに超えたレベルで成長を遂げました。もしかしたら、不可能を可能にする突拍子もないアイデアが生まれるかもしれません。

 最後に筆者から皆さんに演習問題をプレゼントします。

【課題】

  2005年7月に創業し、2007年末時点で従業員46人の会社が、2008年2月初頭には250人に増えました。この会社の強みは2つあったことを思い出しましょう。1つ目は、幹部社員の豊富な発注経験(TPMS構築力)。2つ目は、幹部が手間暇を掛けてOJTで新人を育てる組織力です(TPMS浸透力)。

 この会社の強みを生かして、TPMSを大規模に展開させる案を考えなさい。

【回答例】

  従来路線の延長では、自慢の品質を維持したまま5倍以上の急拡大は不可能。インタビューで高総経理がいった通り、増員した180人を一気に稼働させるのではなく、発展速度を緩めながら、別の打開策を見いだす。

■打開策1

  高品質&少数精鋭の上海本社と人海戦術の河南省開発センターとはブランドを分ける。成功のカギは、初級プログラマ集団を売りまくる営業部隊と労務管理に長けた現地マネジメントの活躍次第だ。

■打開策2

  独自技術で勝負する。卓越した独自技術を武器に大規模案件を一括受注して、河南省開発センターを維持拡大する。現在の「組織力」を武器にしても、日本市場への訴求は弱い。「組織力」や「マネジメント」はオフショア受託成功の必要条件だが、十分条件ではない。成功のカギは、日本企業に技術指導が可能な水準の独自技術を蓄積。会社紹介資料から「プロジェクト管理体制」や「セキュリティ管理体制」といった必要条件に相当するページを減らして、技術やノウハウといった十分条件に相当するページを増やすこと。

 これらが唯一の正解ではありません。あなたも中国ベンダの経営幹部になったつもりで、頭を柔らかくして、一緒に問題解決の道筋を考えてみましょう。

筆者プロフィール

幸地 司(こうち つかさ)琉球大学非常勤講師

オフショア開発フォーラム 代表

アイコーチ株式会社 代表取締役

沖縄県生まれ。

九州大学大学院修了。株式会社リコーで画像技術の研究開発に従事、中国系ベンチャー企業のコンサルティング部門マネージャ職を経て、2003年にアイコーチ株式会社(旧アイコーチ有限会社)を設立。現在はオフショア開発フォーラム代表を兼任する。日本唯一の中国オフショア開発専門コンサルタントとして、ベンダや顧客企業の戦略策定段階から中国プロジェクトに参画。技術力に裏付けられた実践指導もさることながら、言葉や文化の違いを吸収してプロジェクト全体を最適化する調整手腕にも定評あり。日刊メールマガジン「中国ビジネス入門?失敗しない対中交渉?」の執筆を手掛ける傍ら、東京・大阪・名古屋・上海を中心にセミナー活動をこなす。


オフショア大學http://www.offshoringleaders.com/

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