ITリーダーはデータ活用の新たな可能性を模索せよガートナーと考える「明日のITイノベーターへ」(3)(3/3 ページ)

» 2011年08月24日 12時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]
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ソーシャルメディアのデータ分析は企業にとって本当に有用か?

三木 ガートナーさんでは「この数年のうちにビッグデータはあらゆる企業にとって重要なテーマになってくる」というメッセージを出されていますね。では、なぜ企業にとってビッグデータは重要になるのか、一言で説明するとしたらどのように表現されますか?

堀内氏 一言で説明するのは難しいのですが、強いてまとめるとすれば、「旧来型のデータおよびデータ処理を超えたところに、新しいチャンスや、リスクを排除するためのヒントが隠されている」といったところでしょう。新しいテクノロジを導入して、データを処理する速度が上がれば、それだけで競合他社に先んじて経営判断を下せる可能性が高まります。

「昨今のビジネスのスピード感を考えれば、1週間というタイムロスでも大差がつく。新しいテクノロジを導入し、データを処理する速度が上がれば、それだけで競合他社に先んじて経営判断を下せる可能性が高まる」――堀内秀明

 例えば、自社製品の評判を知りたいと思ったとき、自社に入ってくる問い合わせの内容や、アンケート調査を実施してその集計結果を分析するより、Twitterなどソーシャルメディアのデータを取得して、その内容からユーザー動向の兆しをリアルタイムにつかんでおいた方が、少なくとも1週間は早く手を打つことができるでしょう。

 昨今のビジネスのスピード感を考えれば、1週間というのは極めて大きな差になります。従って、企業は新しい情報ソースや、それを取得・分析するための新しい手法に常に気を配るべきです。

三木 ただ、ビッグデータの話題になると、必ずと言っていいほど「ソーシャルメディアのデータを分析してビジネスに役立てる」といった話が出てきます。しかし本当にそれは一般企業にとってメリットがあるものなのかどうか、なかなかイメージしにくいところがあると思うんですが。

「最近は、ソーシャルメディア上での企業・商品の評判を分析するサービスを、SaaSで提供する企業も登場している。そうなると、そうした企業にデータの集計・分析を委託すれば事足りるという考え方も出てくる。ただ投資対効果の見極めは悩ましいところだ」――三木泉

堀内氏 具体的なメリットという意味では、CRMの一環として、顧客の嗜好や動向を把握したり、顧客とのリレーションを強化する目的でTwitterなどのソーシャルメディアを活用するケースが挙げられるでしょうね。ソーシャルメディアのデータを何らかの形で活用する動きは、一般企業のマーケティング部門などで、着実に高まりつつあると思います。

 逆にIT部門の方が、こうしたデータの有用性をよく理解できていないような気がしますね。IT部門はどうしても、自分たちが直接管理しているシステムの範囲だけがITの全てだと考えがちですが、今日では一般ユーザーの間でスマートデバイスやソーシャルネットワークを介して膨大な量の情報が流通しています。今後はIT部門にとっても、こうしたデータをどう活用していくかが大きなテーマになってくると思います。

三木 最近では、ソーシャルメディア上での企業や商品の評判情報を分析するサービスを、SaaSで提供する企業が出てきています。そうなると、市場分析のためにわざわざ自社システムにデータを取り込んで分析するまでもなく、そうした企業にデータの集計と分析を委託すれば事足りるという考え方もできますね。

堀内氏 そうですね。ただ自社ではどの範囲まで分析するのか、そして自社でどれだけのスキルを有しているかにもよると思います。テキスト情報を分析して何らかの知見を引き出すには、それなりに高度なスキルとノウハウが必要になりますから。一方で、外部に委託したとしても、きちんとした成果が出せるとは限りません。

 例えば、自動車や家電製品のように、メーカーの企画部門や生産部門が消費者との直接の接点を持っていないような場合、消費者の声をより早く知るためにソーシャルメディアのデータを活用したいと考えるのではないでしょうか。ここで、他社との差別化を図るために、より深い分析を行いたい場合には、自社内で仕組みを作り込む必要が出てきます。

 しかし、自社で分析するスキルがない場合や、口コミレベルの軽い情報を一時的に分析したいようなケースでは、外部のデータ分析サービスを使うのも一つの方法でしょう。まずは試しに1、2カ月使ってみるのも手だと思います。

三木 社内にそうした仕組みを導入する場合、それなりにコストが掛かるので、どうしても投資対効果が問われることになります。しかし、なかなかその効果を定量的に示すことができないという声もよく聞きます。

堀内氏 いきなり本格的な仕組みを構築しようとすると、どうしても大きなコストが掛かってしまいますから、まずは限られた範囲で試してみて、成果が出るかどうか検証してみることをお勧めします。その場合、外部のデータ集計・分析サービスをうまく活用すれば、さほど費用は掛からないと思います。その結果、「これはいける!」と判断できた時点で、あらためて自社で分析したいデータの範囲を明確に定めて、本格的な仕組み作りに着手すればいいのではないでしょうか。

「管理者」ではなく「ITプロフェッショナル」を目指せ

≪三木 では、そうした新しいデータ活用の在り方を踏まえた上で、今後、企業のIT部門でリーダー的役割を担っていく若い人たちは、どのように行動していくべきだとお考えですか?

「IT doesn't matter――重要なのはITではなくビジネスだという言い古された言葉があるが、そうではなく、IT does matterだと思う。今や新しいテクノロジを使いこなせるかどうかが企業の存亡を左右する時代。やはりITは重要だ」――堀内秀明

堀内氏 1つキーワードを挙げるとしたら、「IT does matter」ということですね。使い古された言い回しとして、「IT doesn't matter」――つまり「重要なのはITではなく、ビジネスなんだ」というものがありますが、そうではなくて、やはりITは重要なんですね。すでにお話しした通り、今や新しいテクノロジを使いこなせるかどうかが、企業の存亡を大きく左右する時代になっていますから。

 しかし一方で、これまで企業のIT部門やSIerは、プロジェクト管理やテクノロジの標準化など、プロジェクトの失敗を避けるための取り組みばかりに力を入れてきたように思うんです。確かにそうした取り組みも非常に大切なのですが、失敗しないために管理することだけがIT部門の仕事になってしまうと、若い方々は仕事に魅力を感じなくなってしまうでしょう。

 従って若い方々には、今社内で使っているもの以外のテクノロジにも広く目を向けて、「この部分には、このテクノロジが使えるのではないか」という企画をどんどん出していってほしいですね。ただし、ただ単に「新しいから使う」のではなくて、具体的に「どのようなビジネスニーズがあるから、そのテクノロジが有用だ」ということを常に意識しながら考えることが重要です。そうしたことを通じて、単なる管理者ではなく、真の意味でのITプロフェッショナルをぜひ目指してほしいと思います。

著者紹介

企画:@IT情報マネジメント編集部

構成:吉村哲樹


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