ITリーダーは、コミュニケーションのサイロ化を解消せよガートナーと考える「明日のITイノベーターへ」(7)(3/3 ページ)

» 2012年04月18日 12時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]
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「ソーシャルメディア上での貢献度」を評価する仕組みも必要

三木 そうしたソーシャルメディアの活用が進むことによって、企業におけるコミュニケーションの形態が、よりフラットかつボトムアップ型になり、社員個人の自主性を生かした新たなワークスタイルが生まれる可能性が出てきますね。

 ただ一方で、企業には組織全体としての目標があって、それは必ずしも社員個人の創意工夫やモチベーションが向かう方向と一致するとは限りません。また、社員個人がそうした新しい働き方に積極的に取り組んだとしても、必ずしも組織にきちんと評価されるとも限りません。これは昔から指摘されている課題ではありますが、ソーシャル時代においても難しい問題ですね。

「ソーシャルメディアの面白さは、ユーザーがおのおの勝手にアイデアを出し合うことで、自然発生的に情報の価値が高まっていくところにある。まずは使ってみれば、理解を示すユーザーは徐々に増えていくはずだ」――志賀嘉津士

志賀氏 そうですね。初めのうちはあくまで自主的な活動としてソーシャルメディア上で情報を発信していたとしても、いずれは会社側がそれを正式な業務として認めて、正当に評価してあげる仕組みを作る必要があるでしょう。

 1つの方法としては、「SNA」(Social Network Analysis)ツールの活用があります。ソーシャルネットワーク上での社員の貢献度は、売り上げなどといったリアルな業務活動のKPIとは違って、なかなか目に見えません。しかし、SNAのような分析ツールを使うことで、ソーシャルネットワーク上での会社への貢献度をポイント化できるようになります。

 こうした客観的な評価の仕組みがあれば、社員も疑心暗鬼に駆られてノウハウを自身の中にため込むことなく、オープンに情報を発信するようになるでしょう。そうして皆の知恵を共有して生かせるようになれば、ひいては企業全体の競争力向上につながるわけです。

 ただし、こうした分析ツールの導入は、社員を評価する立場にいる人の感覚と、そのツールが弾き出す評価ポイントとが一致することが前提です。従って、初めのうちはむしろ、評価者が自分の評価感覚を客観的に判定するためのツールとして使うのが適切かもしれません。

 そうやってしばらく使ってみて、自分の評価とツールがはじき出す評価が一致してきた時点で、初めて部下の評価に適用するのが良いでしょうね。ツールだけの評価では、これはこれで恣意性がまぎれ込む可能性がありますから、人間の評価とツールの評価の両方をうまく組み合わせることが大事だと思います。

「企業内コミュニケーションが、よりフラットかつボトムアップ型になり、社員個人の自主性を生かしたワークスタイルが生まれる可能性がある。だが、組織と個人の目標が必ずしも一致するとは限らない。個人と組織のバランスをどう取るか。なかなか難しい問題だ」――三木泉

三木 なるほど、ちなみにSNAツールは、現時点ではどの程度成熟してきているのでしょうか?

志賀氏 残念ながら、まだ成熟しているとは言えませんが、面白いツールも出てきています。例えば「Spigit」というツールは、ソーシャル上での自分の評価ポイントを、分野別に参照できる機能を持っています。これを使えば、何らかの意思決定を行う際に、単に声の大きい人の意見が通るのではなくて、その分野でポイントが高い人の意見を多く反映させるようなことが可能になります。

 また、支持する意見に対してポイントを賭けて、採用された意見に賭けた人が全部のポイントを総取りするような、いわゆるゲーミフィケーションの方法論を取り入れた意思決定も可能です。コミュニケーション活性化の手段としては、こうしたやり方も有効かもしれません。

ソーシャルメディアは人が中心。ユーザーのモチベーションが重要

三木 現状、実際にソーシャルメディア型のコラボレーションツールを導入している企業はどれぐらいあるのでしょうか。

志賀氏 2011年5月に、社内ブログや社内SNSの導入状況に関するアンケート調査を実施したのですが、8%ほどが「導入している」と回答しています。この数字は、規模が大きな企業に限れば約15%まで跳ね上がります。つまり、意外と導入が進んでいるんですね。

 その理由の1つとして、グループウェアのソーシャル化が進んでいる点が挙げられます。そもそも、多くのグループウェアが持っている情報共有ボックスや掲示板といった機能は、一種のソーシャルメディアだと言えます。「ソーシャルメディア」という呼び方をしなかっただけの話ですね。

三木 ただ、グループウェアが備えるソーシャル機能は、まずはある特定のテーマや情報があって、そこを中心にユーザーが集まってコラボレーションを行うというイメージですね。一方、Facebookやmixiなどのソーシャルメディアは、より「人中心」のイメージです。つまり、特定のテーマやお題がなくとも、人が自然に集まって自然発生的なコラボレーションの中から価値が生まれてくるという形態です。この辺りは、グループウェアのソーシャル機能とは異なるように見えます。

「ソーシャルメディアは『人』が中心。その導入において求められるのは、業務現場の問題意識やモチベーションであり、IT部門は情報の提供や技術面のサポートに徹した方がうまくいく」――志賀嘉津士

志賀氏 おっしゃる通り、やはりソーシャルメディアは「人」が中心です。いろんな人がいろんなアイデアを出し合って、それを皆で共有して付加価値を与えることができれば、人が先だろうがテーマが先だろうが、順序はどうでもいいんです。

 グループウェアの掲示板機能はそうした用途に比較的マッチしていますし、やろうと思えば電子メールでもできないことはない。ただ、電子メールだと何かと不便なので、専用のツールがいろいろ出てきているというのが現在の状況です。

 最近では、グループウェア自体がソーシャル機能をどんどん取り入れてきています。今後、グループウェアはより一層、ソーシャルの方向に進むでしょうね。さらに、最近では文書管理ツールや検索ツールもソーシャル機能を取り入れつつあります。ソーシャルメディアの定義は非常に広い範囲を含みますから、今後はソーシャルメディア専用ツール以外の幅広いジャンルのソフトウェア製品がソーシャル化の方向に向かうでしょう。

三木 そうなってくると、企業のIT担当者はツールの選定に苦労することになりそうですね。

志賀氏 そうですね。ただ、ソーシャルメディアの導入においては、実はIT部門の役割はさほど大きくないんです。やはり大事なのは業務現場の問題意識やモチベーションで、IT部門は情報の提供や技術面のサポートに徹した方がうまくいきます。事実、ソーシャルメディア導入の成功事例を見てみると、IT部門がうまく立ち回ったというよりは、ビジネス部門ごとにそれぞれ推進役を立てて、その人たちが導入と活用を主導しているケースが多いようです。

三木 なるほど。そういう意味でも、ソーシャルメディアはやはり現場の「人」が中心の取り組みなんですね。

志賀氏 その通りです。日本の企業には優秀な人材がたくさんいるはずなのですが、それぞれの能力が孤立し、サイロ化している状態では、相乗効果はなかなか生まれません。それがソーシャルメディアによって、それぞれの「人」がまるで脳細胞のように互いに結び付いていけば、大きな効果を発揮すると思います。現在は、Facebookの普及などをきっかけにして、「そういうことが可能なんだ」と、多くの人々がようやく気付き始めた段階なのではないでしょうか。

著者紹介

企画:@IT情報マネジメント編集部

構成:吉村哲樹


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