人生山あり谷ありで元に戻る:挑戦者たちの履歴書(94)
編集部から:本連載では、IT業界にさまざまな形で携わる魅力的な人物を1人ずつ取り上げ、本人の口から直接語られたいままでのターニングポイントを何回かに分けて紹介していく。前回までは、細井洋一氏がジュニパーネットワークス社長に就任するまでを取り上げた。今回、初めて読む方は、ぜひ最初から読み直してほしい。
2009年11月1日、細井氏はジュニパーネットワークス(以下、ジュニパー)日本法人の社長に就任した。ちょうどその直前、米ジュニパー本社は新たな製品戦略と企業ロゴの発表を行ったところだった。
そこで発表された同社の新たなキーワードは、“The New Network is Here”──恐らく細井氏にとってこのフレーズは、かつて長く在籍したサン・マイクロシステムズが標榜していた理念、“The Network is the Computer”と重なり合うところがあったのではないだろうか。
「“The New Network is Here”というジュニパーの新しいキーワードを初めて聞いたとき、『あっ、これはちょうど僕にはまったな!』と思いましたね」
細井氏が、NTT西日本の要職に就くある人物から聞いた言葉の中に、非常に印象深いものがあったという。「ネットワークは、空気のようなものだ」。
「ネットワークは空気のように、あって当たり前のもの。でも、それがいったん止まったり壊れてしまったら、空気がなくなってしまうようなもの。皆困ってしまう。この話を聞いたときに、『ああ、これからは絶対にネットワークだな!』と思ったんです」
一昔前とは違い、今やネットワーク上を流れるデータは、単純なテキストデータだけではない。音声や画像はもちろんのこと、今後は動画データ、それもかなり高解像度のものがどんどんネットワーク上を流れるようになった。それらをユーザーに遅延なく届けるためには、今よりもさらに高速なネットワーク環境が必要になる。
さらにもう1つ、ネットワークの存在が重要性を増す重要な契機がある。クラウドコンピューティングの潮流だ。クラウドの世界では、アプリケーションのデータがどんどんネットワーク上を流れるようになる。また、ビジネスとしてクラウドのサービスをユーザーに提供するためには、性能や信頼性の面で一定のサービスレベルを担保しなくてはならない。そうなると、ネットワーク自体だけでなく、その運用の品質も厳しく問われることになる。
こうした厳しい要件をクリアした上で、初めてネットワークが空気のような、当たり前の存在になるのである。
「ジュニパーの“The New Network is Here”というキーワードは、まさにこうしたネットワークの将来像を見据えたものです。実際、性能や運用性の面で、ジュニパーの製品はこうした要件を満たしているのです」
今後、次世代ネットワークが世界中で構築されていく中で、ジュニパーは面白い投げ掛けをどんどん行っていくだろうと細井氏は言う。
「よく森林に行くと、『ああ、空気がきれいだな』と感じますよね。ネットワークも、そんな空気のような存在にしたいですね」
そのためにも、ジュニパーのビジネスを成長させていかなければならない。細井氏に課せられた使命は、ジュニパーを、ネットワーク業界のリーダーであるシスコに正面から対抗できる企業に育て上げることだ。そのため、これまで直販思考でビジネスが進められていた日本法人において、パートナービジネスモデルを強化し、パートナーエコシステムを構築することでビジネスを大きくスケールさせていくという。細井氏は、この戦略に大きな自信を持っているようだ。
「かつて僕がいたサン・マイクロシステムズのように、もともとパートナービジネスをメインにやっていたところに直販ビジネスを持ち込むのは、極めて難しいんです。これは、僕自身が肌身で感じたことです。でも逆にジュニパーのように、もともと直販思考を持ってやっているところでは、直販の良さを生かしつつ、パートナービジネスを強化できるんです。そういう意味で、ジュニパーは徐々にバランスの良い会社になりつつあると感じています」
1979年、ネットワークサービスの走りであるテレックスのビジネスからIT業界のキャリアをスタートした細井氏は、ハードウェアやソフトウェア、チップと、ITのさまざまな領域に携わった後、現在は次世代ネットワークのビジネスに取り組む。
「30年以上経って、再び原点であるネットワークの世界に戻ってきたということですかね。つくづく、面白い巡り合わせだと思いますよ!」
この続きは、3月9日(水)に掲載予定です。お楽しみに!
著者紹介
▼著者名 吉村 哲樹(よしむら てつき)
早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。
その後、外資系ソフトウェアベンダでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。
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- 一度足を洗ったものの、再びブラウザの世界へ
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