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» 2012年01月16日 12時00分 公開

一度足を洗ったものの、再びブラウザの世界へ挑戦者たちの履歴書(140)

編集部から:本連載では、IT業界にさまざまな形で携わる魅力的な人物を1人ずつ取り上げ、本人の口から直接語られたいままでのターニングポイントを何回かに分けて紹介していく。今回は、瀧田氏のネットスケープ退職後の時期を取り上げる。初めて読む方は、ぜひ最初から読み直してほしい。

[吉村哲樹,@IT]

 前回紹介した通り、2001年にネットスケープ日本法人が閉鎖された後も、瀧田氏は米国本社と単身契約を結び、日本におけるクライアント製品の導入やアップグレードを企業に提案する仕事を続けていた。ネットスケープのクライアント製品、特にNetscape Communicatorは、日本では企業における一括導入が比較的多く、既にIEがブラウザ市場をほぼ独占していた当時でも、古いバージョンを利用し続けているユーザーが少なくなかったからだ。

 当時、クライアント製品の開発体制は、「Mozilla.org(Mozilla Organization)」が主導するオープンソースコミュニティに完全に移行しており、ネットスケープの親会社であるAOLも徐々にクライアント製品のビジネスからは距離を置きつつあった。そして2003年、瀧田氏が契約を結んでいた米国本社のクライアント製品チームも、遂に解散することになった。ここに至って、ネットスケープ製品と瀧田氏との関係は、完全に絶たれることになってしまう。

 これまで、幾多の苦難を乗り越えながらネットスケープ製品へのこだわりや愛を貫いてきた瀧田氏だったが、ここに来て遂に決断する。

 「米国本社との契約が切れた時点で、私の中では“一区切りが付いた感”がありました。なので、このとき『よし、もうこれでブラウザは終わりにしよう!』ときっぱり決めました」

 ネットスケープの末路は残念だったが、できる限りのことはやったので悔いはない。これでもう、ブラウザの仕事からは手を引こう。そう決心した瀧田氏は、その後しばらくの間は知り合いの会社の仕事を手伝いつつ、Webの世界からは距離を置いていたと言う。しかし、そんな日々も、結局長くは続かなかった……。

 ある日、瀧田氏と旧知の仲であり、現在はMozilla Japanの理事を務める、サイオステクノロジー社長の喜多伸夫氏から、こんな話を持ち掛けられる。

 「米国でMozilla Foundationが立ち上がるそうだけど、日本ではやらないのか? 日本のMozillaコミュニティのメンバーが、うちに相談に来たぞ」

 ちなみにMozilla Foundationとは、Mozilla.orgの後継に当たる組織である。Mozilla.orgはもともと、ネットスケープ社の出資により設立・運営されていた組織だが、これを同社から完全に独立させ、Mozillaプロジェクト運営のための完全な非営利団体として新たに設立されたのが、Mozilla Foundationである。

 「もうブラウザの仕事はやらない」と決めていた瀧田氏にしてみれば、「今さら、そんなことを言われても……」といったところだったに違いない。しかし、周囲の人々にいろいろ相談しているうちに、だんだんと同氏の気持ちは再びブラウザの世界へと傾いていく。

 「米国のかつての仲間に相談したところ、『日本にも、ぜひMozilla Foundationの支部を設けるべきだ』とアドバイスを受けました。また一方で、『日本で長くNetscape Communicatorを使っている企業ユーザーを、このまま見捨ててもいいのか?』という議論も持ち上がっていました。それに、もともと頼まれると、嫌とは言えない性分ですからね。思い切って、Mozilla Foundation日本支部の立ち上げを引き受けることにしました」

 こうしてほんのわずかな中断期間を経て、再びブラウザの世界に舞い戻った瀧田氏。かつてはネットスケープで製品を直接開発する立場にあった同氏は、今度はオープンソース開発を支援し、製品の普及を推進する立場として、Webとブラウザの世界に関わっていくことになった。

 2003年7月、米国でMozilla Foundationが正式に発足。瀧田氏は喜多氏らとともに、その日本支部の設立委員会を発足させる。しかし、正式に日本支部を開設してその運営を軌道に乗せるまでには、まだまだ幾多の困難を乗り越えなければならなかった……。


 この続きは、1月18日(水)に掲載予定です。お楽しみに!

著者紹介

▼著者名 吉村 哲樹(よしむら てつき)

早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。

その後、外資系ソフトウェアベンダでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。


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