中学で同じ趣味のマニアに出会う挑戦者たちの履歴書(100)

編集部から:本連載では、IT業界にさまざまな形で携わる魅力的な人物を1人ずつ取り上げ、本人の口から直接語られたいままでのターニングポイントを何回かに分けて紹介していく。前回までは、田中氏の小学生時代までを取り上げた。初めて読む方は、ぜひ最初から読み直してほしい。

» 2011年04月08日 12時00分 公開
[吉村哲樹,@IT]

 奈良県大和郡山市で幼少時代のほとんどを過ごした田中氏だが、小学6年生のときに兵庫県の丹波篠山へ引っ越すことになる。

 丹波篠山は黒豆の産地として知られるとともに、昨年には仲村トオル主演映画「行きずりの街」の舞台としてもクローズアップされた地だ。田中氏いわく、「その前に住んでいた大和郡山よりも、さらに輪をかけて田舎だった」とのこと。

 田中少年はこの地で小学校を卒業し、地元の公立中学校に進学するが、ここで後の人生を大きく左右することになる、ある人物と運命の出会いを果たす。

 「同級生に中沢君という生徒がいたのですが、彼がものすごい電子回路マニアだったんです。小学生のころから電子工作にはまっていた僕は、彼とすぐに意気投合しました」

 ラジオの設計図の話で盛り上がったことがきっかけで、すっかり意気投合した田中少年と中沢君。2人で電子工作に熱中したり、大阪の日本橋まで一緒に出掛けていって、電気店で電子部品を買い込んだり。この出会いがきっかけで、田中氏の電子工作熱はさらにヒートアップすることになる。

 「実験と称して2人でいろんなことをしているうちに、畳を焦がしてしまったこともありましたねえ!」

 当時のことを思い返しながら語る田中氏の口調は、実に楽しそうだ。

 そして、2人で相当な数の電子工作品を作った。例えば、「電池で光る蛍光灯(インバータ)」。普通、電池で駆動するハンディ型の電灯は、懐中電灯に代表されるように、電球を使うのが一般的だ。しかし、田中少年らは独自に工夫して、乾電池で蛍光灯を点灯できる携帯装置を設計・開発したという。

 もちろん、電子工作の定番であるラジオや無線機も作った。「ラジオといっても、ただのちゃちいキット型のラジオではないですよ」と、田中氏は少し得意そうに話す。

 「現在の市販ラジオでは当たり前の技術ですが、当時はまだ珍しかったスーパーへテロダイン方式の回路を、自分たちで設計して作りましたからね!」

 とはいえ、当時はまだ一から全ての設計図を起こすまでのレベルではなかったと言う。1990年代当時、電子工作に関する情報はあまり世に出回っていなかった。従って、二人も書籍に載っている出来合いの設計図を参考にしつつ、さまざまなトライ&エラーを重ねながら、独自の回路を作り上げていった。

 「1970年代に一度電子工作ブームがあったんですが、それが収束した後、2000年代になって今度はロボット工作という形で再び電子工作ブームが起こりました。でも、僕が中学生時代に電子工作に熱中していた1990年代は、この2つのブームのちょうど端境期で、雑誌も昔からある老舗の『トランジスタ技術』ぐらいしかありませんでした」

 それでも、作っては次、作っては次へと、電子工作への興味が尽きることはなかったと言う。とにかく、トライ&エラーを重ねながらモノを作っていく過程が楽しくてたまらなかった。

 「作ったものを使うことが目的ではなくて、作ることを目的にやってたんですね。こういう感覚は今でも変わってなくて、時々自分で“勝手サイト”を立ち上げたりするんですが、それも使うことではなくて、作ること自体が目的なんです。とにかく昔から、モノ作りが好きだったんですね」

 こうして、中沢君という強力なパートナーを得て電子工作に熱中したこの時期は、田中氏にとって人生の大きな転換点となったようだ。

 しかし、この2人の交友関係は思わぬ形で途切れることになる。中学3年生に進級してすぐ、田中少年は父親の仕事の都合で、家族揃って横浜へ引っ越すことになったのだ。

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 この続きは、4月11日(月)に掲載予定です。お楽しみに!

著者紹介

▼著者名 吉村 哲樹(よしむら てつき)

早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。

その後、外資系ソフトウェアベンダでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。


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