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» 2011年04月13日 12時00分 公開

入学早々“校歌しばき”の洗礼を受ける挑戦者たちの履歴書(102)

編集部から:本連載では、IT業界にさまざまな形で携わる魅力的な人物を1人ずつ取り上げ、本人の口から直接語られたいままでのターニングポイントを何回かに分けて紹介していく。前回までは、田中氏の高専入学までを取り上げた。初めて読む方は、ぜひ最初から読み直してほしい。

[吉村哲樹,@IT]

 横浜の中学校を卒業した田中氏が入学したのは、京都の舞鶴にある「舞鶴高専」(国立舞鶴工業高等専門学校)。学科は「電子制御工学科」だった。

 田中氏が高専への進学を志したそもそもの動機については、これまでの回を読んでいただくとして、なぜ当時住んでいた横浜周辺ではなく、京都の学校を選んだのだろうか? そのきっかけを作ったのは、田中氏が兵庫県丹波篠山の中学校に通っていたときの同級生で、同氏が本格的にモノ作りに目覚めるきかっけを作ってくれた中沢君という友人の存在だった。

 「中学校のときの親友、中沢君が舞鶴高専を受けるというので、『じゃあ僕も』ということで志望したんです。まあ、決してそれだけが理由ではなかったんですが、でも結局中沢君は落ちてしまい、受かった僕は1人で通うことになってしまったんです!」

 こうして幕を開けた田中氏の高専生活。舞鶴高専での学生生活とは、一体どのようなものだったのだろうか? 筆者も含め、普通制の高校に通っていた者にとって、高専での学生生活はあまりなじみのないものだろう。田中氏は、「一言で言えば、大学のようなノリですかね」と説明する。

 「掲示板に休講情報が貼り出されたり、落第も結構多かったりと、大学に近い雰囲気ですね。しかも5年制なので、最上級生には20歳の人もいる。中学を出たての新入生にとっては、環境のギャップが激しかったですけどね」

 では、いわゆる「キャンパスライフ」のように自由闊達な校風なのかというと、それともちょっとばかり違うようだ。田中氏が通った舞鶴高専は、基本的に全寮制。とにかく上下関係が厳しく、典型的な体育会系のノリだったという。先輩が言うことは絶対で、新入生にとって5年生は神様のような存在。3年生になって、ようやく人間として扱ってもらえる。それぐらい、上下関係が厳しかった。

 「あいさつはとにかく絶対。校内で先輩とすれ違うときには、大きな声で『おはようございます!』『こんにちは!』。これができないと、殴られることもありました。入学して1カ月後、初めて街に出たときに、危うく一般の通行している人に大声であいさつしそうになりました! それぐらい、上下関係と礼儀作法は徹底していましたね」

 田中氏は、当事学内で行われていた「校歌しばき」という慣例を一例として挙げる。先輩たちが後輩を1人ずつ呼び出して、校歌を歌わせる。これでもし歌えなければ、「しばく」というわけだ。この理不尽な慣例のおかげで、卒業生は皆、いまだに校歌を3番までしっかり覚えているという。「とにかく、理不尽なことだらけだった」と田中氏は当時を振り返るが、ではこうした体育会系のノリが嫌いなのかと思いきや、そういうわけでもないのだと言う。

 「体育会系の環境で鍛えられたおかげで、きちんとあいさつできるようになりましたしね。もし舞鶴高専に行かなかったら、僕は本当にいけすかないやつになっていたと思いますよ! 手段はどうあれ、結果は良かったと思います」

 当時、理不尽な思いに耐えた経験を踏まえ、自分が経営する会社は体育会系の社風には絶対にしたくないと田中氏は言う。ただし、体育会系のやり方自体は決して否定 しない。

 「皆で同じ釜の飯を食うと、やはり手っ取り早く結束力が高まるんですよ。うちの会社ではやりたくないですけど、でも体育会系のやり方自体は今でも有効な手段だと思ってます。ですから、それを否定する人には『そうじゃないよ』と言いたいですね」

 なるほど。一見すると温和でのんびりした田中氏の印象と、さくらインターネットを率いる気鋭の経営者という実像が筆者の中でなかなか結び付かずにいたが、ここに来て何となく分かったような気がした。

 生き馬の目を抜くITベンチャー業界を勝ち抜くためのタフネスさは、きっと舞鶴高専の体育会系の世界で過ごした5年の間に鍛えられたものなのだろう。そして、一見穏やかな同氏の印象は、社内外の人々に向けた気遣いの表れでもあるのだろう。

 「僕自身は、体育会系の人間なんですよ」

 とても体育会系の人間とは思えない柔和な表情で、田中氏はそう言う。


 この続きは、4月15日(金)に掲載予定です。お楽しみに!

著者紹介

▼著者名 吉村 哲樹(よしむら てつき)

早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。

その後、外資系ソフトウェアベンダでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。


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