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ソニーのハイエンドAVアンプ「TA-DA9000ES」を試すレビュー(4/4 ページ)

» 2004年04月30日 12時23分 公開
[本田雅一,ITmedia]
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 追加された2台のスピーカーは、5.1チャンネルに左右サラウンドバックを加えた7.1チャンネル配置の、フロントとサラウンドスピーカーの間に設置する。このように配置することで、5.1チャンネルソース時、6.1チャンネルソース時の両方でバランスよくサラウンドスピーカーをグループ分けできる。

 筆者は7.1チャンネルまでの評価環境しか持たないため、急遽、別メーカーのスピーカーをサラウンドバックにし、それまで使っていたサラウンドバックを前に持ってくることで9.1チャンネルでの評価を行ってみた。

 一般的な7.1チャンネル配置の場合、フロントとサラウンドの間が大きく空いてしまい、その部分の音が薄くなるものだ。前方から後ろへと抜けていく音が、その途中で存在感が薄くなる。また僕が所有しているあるマルチチャンネルSACDソフトでは、ボーカリストがバックバンドよりも少し前に立ち、曲の途中で手前左へと移動するものがある。7.1チャンネルや5.1チャンネル時は、移動する途中に違和感を感じることもあったが、9.1チャンネル環境では不自然さを感じることがなくなった。

 また、各サラウンドスピーカーの音量が小さくなる。残響音や反射音がたっぷり入ったソフトではリアスピーカーが、そこに存在することが気になることがある。しかし、これが複数スピーカーに分散するため、音が出てくる方向が曖昧になり、より自然に聞こえるのだ。

 最初はリアチャンネルに入っている独立した楽器(たとえば間奏のトランペットだけがリアに割り当てられているソフトなど)の方向が曖昧になるのでは?との心配をしていたが、その点は全く気にならなかった。映画はもちろん、マルチチャンネルの音楽を聴く場合でも、9.1チャンネル配置には効果がありそうだ。

 何より気に入ったのは、そのサービスエリアの広さである。スピーカーの中に入っていれば、どの位置にいても、割と気持ちよく音が定位してくれる。5.1チャンネルや7.1チャンネルでは、気持ちよいリスニングポイントがある程度限定されるが、家族で映画や音楽を楽しむ場合、誰もが良い場所に座れるわけではない。リビング全体を“ホームシアター化”しようと計画しているなら、この点は注目したい。

 また金井氏によると「スピーカー1台あたりの負担が減るため、リア側スピーカーの質が多少落ちてもカバーできる。またサイズの小さいサラウンドスピーカーでも、3台に分散させれば(5.1チャンネルを9.1チャンネル化する場合)それなりに低音が出るようになるため、リアのスピーカー設定を“ラージ”にすることが可能なのもメリット」だそうだ。

中級ピュアオーディオを押し退けるに十分な実力

 かつて「AVアンプの音はどうしようもない」と言われていたことがあった。しかし、DVDの普及とともにAVアンプ市場が拡大するとともに、メーカーの投資もAVアンプに注がれるようになり、現在は大きく改善している。

 と、理屈ではわかっていても、なかなかそれまでのオーディオシステムをAVシステムで置き換える気にはなれなかった。「所詮はAVアンプ」という気持ちが、自分の中にあったことは否定できない。

 率直に言えば、「UV845を使った55万円の真空管アンプが、50から60万そこそこの価格が付けられたマルチチャンネルアンプに負けるわけがない」と、アタマから思い込んでいた部分があったのかもしれない。

 筆者の周りにはハイエンドのオーディオユーザーが何人かいるが、自分で所有しているのは、プレーヤー、アンプ、スピーカーが全部セットで150万円ぐらい。ピュアオーディオとしては中級クラスである。よって、ハイエンドユーザーがDA9000ESに満足できるか否かまでは判別しかねるが、少なくともわが家程度のピュアオーディオセットを使っているユーザーは、昨今の50万円超の国産AVアンプを評価してみる価値があると思う。わが家において、アンプをDA9000ESに入れ替えたところ、2チャンネルオーディオとしても明らかなグレードアップになったからだ。

電源部のアップ。巨大なトロイダルトランスを備えたアナログ電源を採用。デジタルアンプではスイッチング電源が使われることが多いが、金井氏によると音質的には大型のアナログ電源の方が有利だという
強力な電源部に付けられているコンデンサ。その大きさがわかるだろうか

 オーディオ機器は一般にシンプルなものの方が質が高い。なのに、なぜこのようなことが起こるのか?もちろん、DA9000ESが優秀なのかもしれないが、僕は市場規模の差だと考えている。

 どんな製品も、予定出荷台数の見積もり、販売総低価格、原価などを計算し、あらかじめビジネスとしてペイできるラインを考えておくものだ。当然、出荷台数の差は全体のコストに大きく影響する。

 金井氏によると、前作のTA-E9000ES/N9000ESのセットは、当初ワールドワイドで6000セット程度の出荷を予定していたが、高級AVアンプとしては異例の1万5000セットが売れたという。DA9000ESは60万円という価格設定もあり、出荷予定台数は4000台に設定して商品の設計を行っているが、実際には近日中に予定をクリアし、予想を超える出荷台数になる見込みという。

 この数字が多いか少ないかと言えば、市場全体の規模からすると確かに少ない。これはソニーがAVアンプ市場で、ヤマハほどの存在感がないせいかもしれない(AVアンプのシェアはヤマハが圧倒的に多い)。しかし、それでもピュアオーディオに比べれば桁違いに多いという。しかも、フラッグシップ機の質がよければ、その下にある大きなAVアンプ、ホームシアターセットの市場におけるブランドイメージも向上する。

 つまりAVアンプは、ピュアオーディオアンプよりも投資しやすい環境にあると言える。DA9000ESだけではない。各社のハイエンドAVアンプは、ピュアオーディオユーザーも音質をマジメに評価する段階に来ているように思う。

 またマルチチャンネル環境下でのデジタルアンプの重要性も、今後は増してくるだろう。DA9000ESはかなり大きな音量で7チャンネル分のスピーカーを駆動しても、ほとんど熱くならない。せいぜい暖かい程度だ。アンプのチャンネル数が増える中で、このメリットは決して小さくない。

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