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日本のCD価格は安くなる?――法改正がもたらすエンドユーザー利益の真偽最終回:輸入音楽CDは買えなくなるのか?(3/3 ページ)

» 2004年05月19日 16時54分 公開
[渡邊宏,ITmedia]
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 しかし、現状を見る限り、少なくとも売れ筋邦楽CDについて「価格を下げる」という選択肢をレーベル側は取っていない。むしろいろいろなオマケを付け、単価を上げるという方向で動いている。となれば、法改正によって日本のレコード会社がアジアに進出すれば、日本の邦楽CDの価格が下がるというロジックは、素直に信じることはできないものだろう。

法案の影に潜む可能性――ちらつく米メジャーの影

 昨年12月には法案についてのパブリックコメント募集が行われており、そこに全米レコード協会(RIAA)およびIFPI(国際レコード産業協会)がコメントを寄せている。その内容は「並行輸入に反対する」という内容だった。

 民主党の川内博史代議士はシンポジウムでこの点に触れ、「アメリカの大手レコード会社が並行輸入を止めて、日本でのビジネスを強化したいという意図を感じる」「審議の過程で輸入盤が止まることはないと盛んに政府は言っているが、これらのコメントを見る限りそうではないと考えざるを得ない」と著作権法改正案が、提出趣旨と異なる方向に運用されかねないと懸念を表明している。

 ここに新日米租税条約という一つの要素が見え隠れする。

 この新条約は7月1日から適用されるもので、日米をまたぐ親子会社間の配当や、子会社が親会社に支払う商標・特許の使用料、利子への源泉地課税を大幅に減免するものだ。例えば、米資本が50%を超える子会社の場合、配当に対する源泉徴収は米国で行われるようになる。こうした租税条約改正は、両国の企業間の投資をよりスムースにするという狙いがある。

 言い換えれば、米法人の出資が50%を超える日本の関連会社の米本社への配当は日本国内では非課税になる。米メジャーから見れば、日本の関連会社に利益を上げさせ、より配当などを増やさせることへのインセンティブが強力に働くわけだ。

 洋楽CDの並行輸入は、その点から見て、日本の関連会社の利益を損なう可能性があるものだ。あくまでも推測に過ぎないが、新租税条約と著作権法改正を並べると、現時点では「ない」と言われている洋楽CDの輸入が、米メジャーの政策上、先細りし、国内盤に絞られていく可能性が高いと思わざる得ない。利益を追求する企業の原理から言えば、それが正しい答えになるからだ。

高まる反対の声――声は届くのか?

 「“3000円のCCCDしか買えなくなる”そうした可能性があることをもっと広く知ってほしい」(ピーター・バラカン氏)

 20年程前、輸入CD自体が珍しい存在だった。それが今ではどこでも気軽に買えるようになり、市場は6000万枚にまで広がった。輸入CDが低価格かつ、バラエティに富んでいたことは無関係ではないだろう。著作権法改正によって、こうした輸入CDが入手しにくくなり、気が付くとCCCDの国内盤しかないという状態が生まれるかもしれない。

 既に法案は参議院を通過し、衆議院の審議を待つばかりだ。しかし、日本弁護士連合会、日本消費者連盟、全国消費者団体連絡会、日本生協連といった団体が法案に反対の姿勢を示しているほか、有志による法案反対の署名運動も行われている。

 シンポジウムの席上で、川内代議士は「衆議院で巻き返したい」「最低でも修正、できれば廃案にしたい」と法案の修正・廃案へ全力を尽くすと述べたほか、高橋健太郎氏ら音楽関係者も反対声明を発表している。

 「こうした人数が行動を起こすことは極めて異例」。会見時に高橋氏はこの問題について、多くの関係者が具体的なアクションを起こしたことをこう表現したが、それだけ業界内でも危機感を持った人間が多いということだろう。

 間もなく衆議院での審議がスタートする。

 参院同様、ほぼ原案通りで改正案が通るのか。それともこうした声が届き、何らかの形でそれが法案に反映されるだろうか?

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