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金を取ることだけが著作権保護なのか?LifeStyle Weekly Access Top10

» 2005年05月06日 19時20分 公開
[渡邊宏,ITmedia]

 「iPodからも金を取れ」という刺激的なタイトルのためか、今週の2位には4月28日の文化審議会著作権分科会 法制問題小委員会で議論が行われた私的録音録画補償金制度についての記事がランクインした。

 著作権法第30条 第1項の規定によって、著作物の私的なコピーは例外的に権利者の了解なしに行えるとされているのだが、この補償金制度は「デジタルコピーはコピー時に品質が劣化しないので、私的利用だとしても著作権者が不利益を被っているのではないか」という考えのもとに導入されたという経緯がある。

 日本音楽著作権協会や日本レコード協会、デジタル私的録画問題に関する権利者会議など、補償金を受け取るサイドの団体はこの考えをそのままに、対象の拡大を要求する。一方、自らが製造する製品に補償金という価格の上積みがされてしまうJEITAや日本記録メディア工業界は制度そのものの見直しを要求する。

 著作物の利用について対価を求めたいという権利団体の心中もわからなくはないが、現在の制度が内包する問題点は数多く、それは対象となる機器を増やせば解決するというレベルではない。

 筆者がそのように考える最も大きな理由の一つは、コピーを抑制する技術的手段が次々と実用化され、個人が私的複製を行える範囲が狭まっているにもかかわらず、そこへ金銭的な補償金制度を適用することは著作物利用に対する二重の対価徴収に当たるのではないかということだ。

 現在の補償金制度にはフラッシュメモリ/HDDを使用した機器は含まれていないが、よく知られているよう、デジタル放送はCPRMによってHDDからDVDメディアへのコピーを行うことができないし(ムーブのみ可能)、OpenMGやWindows DRMによる保護を施された楽曲はフラッシュメモリプレーヤーへ無制限にコピーを行うことができないようになっている。これは金銭的な負担ではないが、利便性という点については明らかに消費者に対して負担を強いている。

 また、委員会の席上で私的録音補償金管理協会(SARAH)が「配分すべき金額が小さく、(連絡用のハガキ代や振り込み費用を考えると)分配するだけで赤字になってしてしまうこともあり、死文化している側面は否めない」と発言するなど、誰に対する保証を行う制度なのかがあいまいになっている現状もある。

 著作権者に対価が支払われないという事はあってはならないが、現在の制度は「広く薄く補償金を徴収し、複数の仲介団体を経由し権利者に分配される制度」(JEITA)になっており、制度自体が有効に機能しているとは言い難いのではないだろうか。

 理想はユーザーが利用(コピー)した分だけ、著作権者になんらかの対価が支払われることだと思われるが、そのためには私的複製の範囲を明確に定義することが必要になる。加えて、技術的著作権保護を回避した場合の罰則規定や、私的録音録画に対して金銭的な保証を行うことが必要かどうかも再考の余地があるだろう。

 2011年にはアナログ放送が停波し、本格的なデジタル時代に突入する。すべてがデジタル化されれれば「デジタルコピーはコピー時に品質が劣化しないので、補償金が必要だ」という論理そのものが成り立たなくなる。

 すべてがデジタル化される前に、なんらかの結論は出るのだろうか?

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