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臨場感を増す音声に食欲をそそる映像――ひかりTVが採用を検討しているMPEG-4 ALSとHDRの姿

» 2015年04月09日 22時59分 公開
[芹澤隆徳ITmedia]

 NTTぷららが4月9日に事業戦略説明会を開催し、4K対応のIP放送開始を含む今後の戦略を発表した(→関連記事)。この席上、板東浩二社長が「対応を検討している新技術」として紹介したのがHDRとMPEG-4 ALSだ。会場では両技術のデモンストレーションを行い、次世代の音質と画質をアピールした。

NTTぷららの板東浩二社長と採用を検討中の2つの技術

臨場感を増す――MPEG-4 ALS

 MPEG-4 ALS(Audio LossLess Coding)は、MPEG LAが規格化した音声符号化方式。その名の通り、オーディオ信号を可逆符号化(ロスレス圧縮)するため、元データの完全な復元を保証している。

AACは2万Hzを超えたあたりで落ちているのに対し、ALSはなだらかなラインが続く

 デモンストレーションではまず、女性や子どものボーカルを例にAACとMPEG-4 ALSの周波数特性グラフを比較した。AACでは、人間の可聴域の上限とされる2万Hz以上をばっさりと切り捨てているのに対し、MPEG-4 ALSはなだらかなカーブを描く。これまで圧縮に伴って省略されていた部分までしっかり再生されている証拠だ。

ボートレースの映像でデモ

 ボートレースの映像で従来のAACと聴き比べを行うと、ボートのエンジン音や水を切る音、BGMなど個々の音が一段クリアに聞こえた。「臨場感を向上させる音になる」(同社)。

 MPEG-4 ALSは2016年にスタートする4K対応の高度BSデジタル放送でも採用される見通しだが、ひかりTVではそれを先取りして導入したい考え。担当者は「遅くとも来年のどこかのタイミングで対応したいと考えている」(同社)と話していた。

食欲を刺激する?――HDR

 一方のHDR(High Dynamic Range)は、テレビ画面が表示できるピーク輝度を向上させてダイナミックレンジを拡大し、画面上で表現できる階調を増やす技術だ。UHDTV(4K/8K)の国際規格「BT.2020」で規定された色域の拡大やビット深度の拡張と合わせてトータル画質は飛躍的に向上すると期待されており、年内に登場する見込みの4K対応Blu-ray Disc「ULTRA HD BLU-RAY」でも採用が決まった。

画質比較。左がピーク輝度1000nitsのHDR、右は従来の100nits

 ひかりTVが検討しているHDRは、最高輝度で1000nitsと「ULTRA HD BLU-RAY」に採用されたSMPTE(Society of Motion Picture & Television Engineers)のオープンフォーマットに近い仕様。デモンストレーションでは、1000nitsを出せるソニーの放送業務用有機ELモニター「BVM-X300」2台を使用し、従来のSDR(Standard Dynamic Range)と横並び比較を行った。映像は、ひかりTVが東映デジタルラボと作成した5分45秒のオリジナル作品で、ソニー「CineAlta F55」で撮影した16bitのRAWデータから各色10bitのHEVC(H.265)で符号化。さらにBT.2020で規定された色域に合わせるため、撮影に同行したカラーリスト(色を調整する技術者)が手を加えるという、映画並みに手の込んだものだ。


 画質の違いは一目瞭然(りょうぜん)。SDRと比べると明るい部分がより明るく表示されるだけでなく、全体を通して自然な立体感と高い質感が感じられ、飛躍的にリアリティーが増す。例えば中華街のシーンでは肉まんや北京ダックが映し出されたが、「この映像を見たスタッフが、編集作業中に肉まんを買いに行ってしまった」(同社)というのもうなずける。4KとHDRはグルメ番組にも革命を起こすかもしれない。

「BVM-X300」の設定メニュー。「ITU-R BT.2020」や「OETF 2.4(HDR)」と表示されている。OETF(Optical Electro Transfer Function、光電気伝達関数)は、いわゆるガンマカーブのこと(ただし前提条件が異なるため、OETF 2.4とガンマ2.4はイコールではない)

“30Mbpsの壁”は克服できる

 ひかりTVでMPEG-4 ALSやHDRといった新技術を導入する場合、障壁になるのは上限30Mbpsという伝送容量だ。例えばMPEG-4 ALSの場合、ステレオで1.2MbpsとAAC(144kbps)に比べて容量はかなり大きい。映画などでマルチチャンネル音声を使えばさらに倍以上となる。一方の映像も、HDR化や10bit化により容量は増えるはずだ。

 しかし、ひかりTVの担当者は、「HEVCの圧縮効率については、昨年度末までに良い結果が得られた」と自信を見せる。つまり、映像の符号化効率を上げることでむしろ容量を減らし、音声の情報量増加に対応できるという意味だ。同社はグループ内の各研究所と共同でHEVCの圧縮効率アップに取り組んでおり、HDR対応の各色10bit映像を約25Mbpsにまで抑えるメドを立てたという。各種オーバーヘッドを無視した単純計算だが、MPEG-4 ALSマルチチャンネルによる増加分を含めても30Mbpsに収まる見込みだ。

 ただし、HDRについては対応テレビの仕様に合わせる必要もあり、メーカーの動向を注視している段階ともいう。「ピーク輝度を上げればテレビの消費電力も上がる。またバックライトの寿命を縮めることにもつながりかねず、どこでバランスをとるか見極める必要がある。例えばパナソニックの新型4Kテレビ、CX800シリーズは800nitsまで出せると聞いており、この映像で効果を検証したい」(同社)。

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