ITmedia NEWS >

中は段ボールです――オトテンで見つけた異色のスピーカーブランド「クラフトノーツ」オーディオ&ホームシアター展2015

» 2015年10月19日 13時22分 公開
[ITmedia]

 スピーカーは奥が深い。当たり前だと思っていた技術やスタイルも”絶対“ではなく、新しい発想や卓越した技術によって簡単に覆される。そんな歴史を思い起こさせるユニークなスピーカーをオトテン(オーディオ&ホームシアター展2015)の会場で見つけた。

kraftnotes(クラフトノーツ)「OT-360」

 ミヤザワが“kraftnotes”(クラフトノーツ)というブランドで販売する「OT-360」は、一見レトロ調にデザインされた、おしゃれなキューブ型スピーカー。しかし、後ろにまわってびっくり。スケスケじゃないですか。

スケスケです

 背面はメタルメッシュになっていて、のぞき込むと何やら茶色いものが見える。同社によると、正体はなんと段ボール。通常の吸音材などは一切使用せず、中には幾重にも重ねられた“凹型”の段ボールが音響フィルターとして入っているのだ。

こんな感じで段ボールが入っている

 実は、ミヤザワは1960年の創立以来、段ボール箱の製造や工場内のアウトソーシング事業を中心に手がけている会社。とくに段ボールは規格品だけでなく、用途に応じてサイズや形状、強度など自在に変えながら顧客ニーズにこたえる柔軟な“ものづくり”を信条としているという。さらに段ボール製造の技術やノウハウを使い、“段ボール+α”をコンセプトとする多彩な商品を展開しており、OT-360もその中から生まれた新しいスピーカーなのだ。

 開発を担当したのはスピーカービルダーの芹川明義氏(クラフトノーツプロジェクトチーム、プロデューサー)。同氏はまず、スピーカーの歴史を解説してくれた。「初期のスピーカーは、板にユニットを取り付けただけの“後面開放型”でした。しかし振動板の後ろから発した音は逆位相のため、それが前に回り込むと前方から出た音と打ち消しあってしまいます。それを防ぐために作られたのが密閉型で、さらに(回折効果の大きい)低音を改善するために作られたのがバスレフ型。現在はバスレフ型が主流になっています」。

スピーカーの歴史。初期のスピーカーは後面開放型だった

 しかし背後に出る音が適切に処理できるのであれば、後面開放型の音も魅力的と話す芹川氏。「忘れられているのはもったいない」と訴える。そこで開発したのがOT-360というわけだ。

 同社は段ボールを詰め込んだ後面開放型を「オープンスルー方式」と呼び、特許も出願中。そのメリットは、「振動を吸収する」「定在波がなくなる」の大きく2つ。小型フルレンジユニット(11センチ径)の自然な音に加え、後面開放型という構造が「ルームチューニングに頼らない、豊かに広がる音場を実現する」という。

 「紙が良いのです。段ボールの特性が音響フィルターに適していて効率も高い。エンクロージャー内の音圧の乱れを制御し、再生帯域のエネルギーをフラットに保つことで、正面と背面から放射される音の整合を可能にしました」(芹川氏)。

段ボール製のスピーカースタンドと芹川氏

 もう1つユニークだったのは、展示機が段ボール製のスピーカースタンドに載せられていたことだ。これも振動を吸収する段ボールの新しい用途として開発されたもの。今のところ製品化は未定だが、OT-360以外のスピーカーを載せても振動を抑える効果は変わらないと話していた。

同社はOlasonicブランドの東和電子と協力し、“ナノコンポ”とOT-360を組み合わせたミニマルなシステムをデモンストレーション。Olasonicブースでは普通のスピーカースタンドを使っていた

 OT-360の価格はペアで11万円(税別)。10月16日から予約注文の受付を開始した。なお、普段は神奈川県藤沢市にある同社ショールームで試聴できる。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.