インタビュー
» 2016年06月06日 10時40分 UPDATE

「発想はベンチャー、やることは大企業」――ソニーが作ったイノベーションの芽を育てる仕組み (1/2)

最近、ソニー製品がなんだか面白そう。そんな風に感じたことはないだろうか。今までにない製品を次々と送り出す「Seed Acceleration Program」の仕組みについて、同社新規事業創出部の小田島伸至担当部長に話を聞いた。

[芹澤隆徳,ITmedia]

 最近、ソニーがなんだか面白そうなモノを出してくる。そんな風に感じたことはないだろうか。柄が変わる時計「FES Watch」(フェスウォッチ)や電子ペーパーの特徴を生かしたマルチリモコン「HUIS REMOTE CONTROLLER」(ハウス リモートコントローラー)、いつでも気分に合わせて香りを楽しめる「AROMASTIC」(アロマスティック)など、今までにない製品が次々と話題になっている。いずれも同社の新規事業創出プログラム「Seed Acceleration Program」(以下、SAP)の成果だ。

 ソニーの創業70周年となる今年、「銀座ソニービル」の5階がリニューアルを行い、同社の新規事業を紹介する「Sony Innovation Lounge」に生まれ変わった。ここには、SAPの成果を披露する初めてのリアル店舗「First Flight Ginza」も設けられている。ユーザーとの新しい接点を持つことになったSAPについて、同社新規事業創出部の小田島伸至担当部長に話を聞いた。

ソニー、新規事業創出部の小田島伸至担当部長。銀座ソニービル5階にオープンしたばかりの「Sony Innovation Lounge」で話を聞いた

 小田島氏がSAPを立ち上げたのはおよそ2年前。良いアイデアを持っているのに「どこに持って行ったらよいか分からない」という若手社員たちの声を聞き、新しい挑戦を支援するプロジェクトを平井一夫社長に提案する。部門の枠にとらわれない斬新な手法には反対も予想されたが、いち早く賛同してくれたのが、かつて同社で“畑違い”の新規事業「ソニー銀行」を立ち上げた十時裕樹氏だったという。十時氏に担当役員を引き受けてもらい、SAPは社長直轄プロジェクトとして始動する。

 アイデアの芽を見つける方法は社内公募だ。「グループ社員なら誰でも参加できるオーディションを開催してアイデアを選びます。オーディションを通過したアイデアは3カ月の検証期間を経て、ゴーサインが出れば人と物、組織が与えられます。過去7回のオーディションで累計1500人、約550件の応募がありました」(小田島氏)

機器を問わずに必要なボタンだけを集めてオリジナルのリモコン画面を作れる「HUIS(ハウス) REMOTE CONTROLLER」
柄が変わる時計「FES Watch」(フェスウォッチ)

 合格者は、年齢や職種を問わずプロジェクトリーダーに抜擢され、チーム(事業室)を作って事業化を進めることになるが、その道も平坦ではない。昨年7月に同社が立ち上げたクラウドファンディングサイト「First Flight」に出品し、アイデアの是非をエンドユーザーに問う。これは、メーカーの独りよがりにならず、ユーザーニーズの存在する製品とするために必要なステップだ。支援金額が目標を超えれば製品化され、一方で支援者はいち早く製品を手にできる。メーカー、ユーザーの双方にメリットのある仕組みだ。

「MESH」(メッシュ)はアプリ上のGUIでつなぐだけで連携動作が可能になるブロック形状のセンサー群。「IFTTT」(イフト)との連携も実現した

 「現在は5つの事業室ができて、商品の出荷も始めている段階です。中には入社1年目でアイデアを出し、今3年目ですが課長になっているケースもありますよ。彼は学生時代から腕時計が好きで、スマートウォッチを作りたかったそうです」(小田島氏)

 そのアイデアは、現在「wena wrist」(ウェナ リスト)という商品になっている。wena とは "wear electronics naturally" の略で「人々にもっと自然に、違和感なく、ウェアラブルデバイスを身に着けてほしい」というのがコンセプト。既存のスマートウォッチは、多機能さを求めるあまりにヘッド部が大きくなりがちで、見た目の不自然さにつながっている。一方、wena wristはヘッド部ではなくバンド部に回路を入れるという発想の転換により、腕時計としての自然さを追求した。むやみに多機能さを追わず、3つの機能に絞っているのも特徴だ。

クロノグラフやThree Hands(3針)といった伝統的なアナログ腕時計のデザインを崩さないスマートウォッチ「wena wrist」(ウェナ リスト)

 wena wristは、昨年8月にクラウドファンディングで資金調達を行い、10月までに目標の10倍を超える1071%の支援と2070人の支援者(サポーター)を獲得した。小田島氏は、「2カ月間で1億円を集めたのは日本記録でした」と振り返る。現在は夏頃の市販開始を目標に開発を進めている。

資金調達の成功を伝える「First Flight」サイトのページ。「斬新な発想に驚きました」「ありそうでなかった!」といったサポーターの声が掲載されている
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