連載
» 2016年08月27日 06時00分 UPDATE

山形豪・自然写真撮影紀:ヘリコプターからアフリカの自然を撮る

以前この連載で、軽飛行機からの空撮の話はさせていただいたが、今回はヘリコプターを利用しての撮影についてご紹介したい。

[山形豪,ITmedia]

 南部アフリカにあるビクトリア・フォールズやナミブ砂漠など、知名度の高い景勝地では、空からの撮影を比較的容易に行うことができる。今回ご紹介するのは、ボツワナでもっとも有名な観光地で、世界自然遺産にも登録されているオカバンゴ・デルタでのヘリからの撮影だ。ここは通年豊かに水をたたえる湿地帯で、美しい風景の中に数多くの野生動物が生息している。ケーブルテレビチャンネル「アニマルプラネット」や「ナショナルジオグラフィックチャンネル」などにも頻繁に登場するロケーションだ。

 そんなオカバンゴの野生動物や風景を空から撮ってみたいと前々から考えていた。しかし、観光客向けの遊覧飛行を利用したのでは、乗り合いである手前パイロットにわがままを言えないのと、出発時間が遅いため、光の条件がもっともよい時間帯を逃してしまうなどの問題があった。そこで思い切って一機丸々貸し切ることにした。チャーター料金は1時間約10万円とかなり高額だったが、背に腹は変えられなかった。

山形豪 離陸準備中パイロットとロビンソンR44。 F16、1/100秒、ISO200、ボディ:D500、レンズ:AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR、焦点距離:200mm(300mm相当)

 私がこの時利用したのはヘリコプター・ホライズンズ(Helicopter Horizons)という会社だ。オカバンゴ・デルタのすぐ南に位置し、国際空港もあるマウンの町を拠点にしている。マウンはオカバンゴを始めとするボツワナ北部の観光の玄関口だ。そのため、南アフリカのヨハネスブルグから一日数本の直行便が出ており、日本からのツアーも含め、観光客がひっきりなしにやってくる。商売は繁盛しているようだった。その証拠に、事務所も機材もとても綺麗だったし、予約時のメールの対応も素早かった。

 段取りとしては、まず日本からネット予約をしていき、日時と大まかな希望を伝えておく。繁忙期にはチャーターができなくなる可能性もあるので、早めにやっておくほうが無難だ。現地到着後、フライト前日に空港近くの事務所に出向き、支払いを済ませるとともにパイロットとブリーフィングをする。天気予報をもとに翌日のフライトコンディションに関する説明を受け、こちらからはどのようなショットを撮りたいのかを伝える。撮影内容によって、どのエリアを飛ぶかが変わってくるので、自分の意図をはっきり伝えておくことが肝心だ。この時の担当パイロットは、バリーという気さくなアイルランド人の青年で、仕事はしやすそうだった。相性の悪い相手だと撮影がやりづらくなるので、パイロットとの初対面はドキドキする。

 この打ち合わせで私が出した要望は、日の出前に空に上がること、ドアを外した状態で飛ぶこと、大きな動物の群れのショットが欲しいという3点だった。特にドアを外すというのが重要なポイントで、以前ナミブ砂漠の空撮について書いた際にも言及したが、航空機のキャノピー(風防)越しに撮影をすると像が歪んで使い物にならないことが多いのだ。会社や地域によっては、規則でドアなしフライト(doors off)ができないので、事前の確認は不可欠だ。

 ブリーフィング翌日、日の出前にマウン空港へ行き、パイロットと落ち合ってヘリコプターハンガーまで移動した。搭乗するヘリコプターはロビンソンR44という小型の機種だった。こんなものが本当に飛ぶんだろうかと疑ってしまうくらい単純な作りだったが、世界中で農業用や教習用として活躍しており、扱いやすい機種とのことだった。バリーが機体のチェックを行う間、こちらは撮影機材のセッティングを確認。各種注意事項の説明を受けた後、パイロットの左側に座りシートベルトを着用。カメラ2台を首からぶら下げ、最後にパイロットとの交信用のヘッドセットをつけた。

山形豪 撮影準備を整えた離陸前の筆者

 機材構成についてだが、当然ながらレンズは広角域から超望遠域までをカバーできることが理想だ。しかし、機内はとても狭く、レンズ交換をすると不用意に操縦桿や計器板に物が当たったりして非常に危険だ。ドアがないので機外に落としてしまう可能性もある。そこでこの時は、「D810」に「AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8G ED」、「D500」に「AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR」を付けっ放しにした。

 いざ離陸すると、眼下にボツワナのサバンナが流れるように通り過ぎ、瞬く間にオカバンゴ・デルタ上空に到達した。早朝の涼しい時間帯は、まだ上昇気流が発生していないため揺れもまったくなく、至って快適だった。そして動物の見付けやすさは想像以上だった。陸上からだと、藪や木立、丈の長い草などに遮られて、撮影対象を見つけるのに苦労するが、空からはゾウやバッファローなどの大型動物はいとも簡単に見つけることができた。

山形豪 空からだと、バッファローの群れなどはすぐに見付けられる。F7.1、1/800秒、ISO500、ボディ:D810、レンズ:AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8G ED、焦点距離:70mm

 とにかく見渡せる範囲が広いので、次から次へと被写体が目に飛び込んできて、取捨選択に苦労した。ただし、ライオンのように比較的サイズが小さく、目立たない色をしている種はよっぽど運がよくないかぎり出会えないので、無理に探そうとはせず、その都度遭遇したものを撮るという「行き当たりばったり」方式をとった。それが功を奏して、何と出産途中のシマウマまで撮ることができた。

山形豪 出産途中のシマウマ。F5.6、1/2500秒、ISO320、ボディ:D500、レンズ:AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR、焦点距離:440mm(660mm相当)

 空撮でヘリコプターを使うことの最大のメリットは、何といってもポジショニングの自由度にある。ホバリングや超低速での飛行、タイトな旋回、細かな高度調整など、固定翼機では到底不可能な動きができるため、撮影意図やターゲットの位置、光の加減などに応じて自由自在に動き回れるのだ。水辺で草を食べるゾウを見つけたときは、相手に余計なプレッシャーを与えない高度と距離でゆっくりと旋回してもらい、逆光と順光の両方の写真を撮った。

山形豪 逆光で撮ったゾウ。F8、1/1600秒、ISO250、ボディ:D500、レンズ:AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR、焦点距離:500mm(750mm相当)
山形豪 順光で撮ったゾウ。F8、1/500秒、ISO250、ボディ:D500、レンズ:AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR、焦点距離:500mm(750mm相当)

 一方デメリットもある。航続距離が固定翼機にくらべて短い、騒音がうるさいといった点だ。そして撮影上の注意点としては、ドアなし撮影をする場合、ついカメラを機外に突き出したくなってしまうが、それをやるとメインローターからの猛烈な風圧でカメラがコントロールできないほど振動してしまうことが挙げられる。レンズに手振れ補正機能が付いていてもまったく役に立たないほどなので、レンズフードは装着せず、機材の全長を極力短くしておく必要がある。

 ヘリコプターからの野生動物の撮影は実に楽しく、あっという間に時間が過ぎてしまった。あれでお値段がもう少し安ければ、もっと回数を飛んで、もっと面白い写真が撮れるのにな……といったところだ。

著者プロフィール

山形豪(やまがたごう) 1974年、群馬県生まれ。少年時代を中米グアテマラ、西アフリカのブルキナファソ、トーゴで過ごす。国際基督教大学高等学校を卒業後、東アフリカのタンザニアに渡り自然写真を撮り始める。イギリス、イーストアングリア大学開発学部卒業。帰国後、フリーの写真家となる。以来、南部アフリカやインドで野生動物、風景、人物など多彩な被写体を追い続けながら、サファリツアーの撮影ガイドとしても活動している。オフィシャルサイトはGoYamagata.com

【お知らせ】風景写真出版から、山形豪初の写真集「From The Land of Good Hope / 喜望の地より」(ソフトカバー・A4・128ページ)が発売されている。定価は3500円。また集英社新書で「ライオンはとてつもなく不味い」も刊行されている。ぜひ手に取っていただきたい。


Copyright© 2017 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

この記事が気に入ったら
ITmedia LifeStyle に「いいね!」しよう