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ソニーがハイエンド商品を続々投入できた理由、そして欧州のオシャレな有機ELテレビ事情――麻倉怜士のIFAリポート2016(後編)麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(1/6 ページ)

» 2016年10月12日 11時32分 公開
[天野透ITmedia]

 2016年のIFAでは、多数のハイエンド製品を発表したソニーや、欧米における復活の第一歩を歩みだしたシャープなど、モノとテクノロジーの本質が垣間見えるブースがあちらこちらで見られた。リポート後編は、こうした製品やブースにおける各社のコンセプトを麻倉怜士氏独自の目線で読み解いていく。

ソニーブースのデザインを務めたクリエイティブセンターの市川和男氏とツーショット。近年のソニーはオーガニックをテーマに、他社とは一味違うブース作りをしている

――前編はパナソニックとソニーのテレビを中心に見ましたが、ソニーブースは先生のイチオシだったそうですね。確かに今年のソニー前評判も上々でしたが、具体的に何が良かったのでしょうか

麻倉氏:今年のソニーブースに関していうと、まずブースデザイン自体が素晴らしかったですね。ソニーブースに入ると気持ちが良くなりました。オーガニックがテーマで全体的に中間色が多く、無垢の木材も使われていて木の薫りがするほか、植物も配置され葉っぱの緑色もあちこちに見えました。

――確かに、ソニーのブースはアップルストアを思わせるようなウッドパネルのテーブルが使われていたりしましたね。世界規模の展示会とは言え、わずか数日間の仮設展示にもかかわらず、まるで常設ショップかと言思うほどのぜいたくな作りのように思いました

麻倉氏:以前はソニーも普通のブースデザインだったのですが、正方形だった場所から長方形の場所に移動した2014年からオーガニック路線を打ち出しました。機械を機能で訴えるだけではなく「技術と人のふれあい」として、生活にどう技術が入るかということを切り口に攻め、現在に至っています。

 今年はスクリーンを支える構造材として逆V字の柱を使用しており、テーブルに関しても従来は化粧板を張った合板だったものを、北欧の無垢スプルス材に変更しているので、そこから醸し出されるヒューマンな味わいを感じました。柱にはハンガーをかけて機能性を出すなど、DIY的な演出も見られましたね。

天上には大きくうねった巨大なスクリーンが横たわっており、このうねりに沿った大通りがブース全体を貫く。どこに居てもスクリーンが見やすいだけでなく、北エントランスからの通路という役割も果たすソニーブースでは、曲線通路は来場者を上手く展示に誘導する仕掛けにもなっている

――木材の柱やそこにかかるハンガーからは、まるでログハウスのような印象を受けました。他社ブースが白一色のテーブルだったりする中でソニーだけは有機的なマテリアルがふんだんに使われており、新鮮なだけでなく落ち着きも感じましたね。

麻倉氏:ブースの天井に横たわる巨大なスクリーンは単純なフラットではなくグネグネと波打った通路に沿って湾曲していて、デザインにリズムが生まれるだけでなく、どこから見ても大きな”SONY“のロゴが見えるという機能面の利点もあります。このようにブース全体が非常にこだわり抜かれており、戦略的な演出が効果的でした。

――一北エントランスに隣接する横長のソニーブースは、単なる展示スペースにとどまらず、北から入ったお客さんにとって各ホールへ抜ける通路にもなります。その際にこのグネグネと曲がった通路というのは、お客さんを通路沿いの展示へ誘導するための上手い仕掛けになるとも思いました。導線という機能面からも極めて効果的なデザインですね。

麻倉氏:昔のソニーは「ソニーの技術は世界一!」「好きなようにやるから俺についてこい」といった上から目線の感じが結構ありましたが、今は人の中に溶け込み、人とうまく関わり合いながら生活のクオリティーを向上させるという一歩引いたモデストなモノづくりに変わってきており、そういった変遷がブースデザインにも現れているのでしょう。出展コンセプトがハッキリとしたブースデザインでした。

 ブースデザインは各社それぞれのコンセプトを立てており、例えば私がとても不愉快と感じたのはドイツの通信最大手Tmobileのブースです。全面をマゼンタの原色で塗りたくった、まるで爆発するような、火山のような、極めて攻撃的な配色で、居るだけで不愉快になるものでした。ですがそれも1つのコンセプトで、そこにはやはり出展に関わるメッセージが込められているのですね。

――「速いは正義」の通信業界ですから、落ち着いたトーンよりもエネルギッシュなトーンを打ち出す方が業種的には合っているといえますね。最も、Tmobileの場合はマゼンタがコーポレートカラーという理由が大きいでしょうけれど……

市川氏へブースデザインの取材をしている麻倉氏。V字の柱や梁には木材がふんだんに使われ、テーブルには無垢のスプルス材がおごられるという、常設展示にできそうなほどぜいたくな作り

麻倉氏:ソニーブースを見たすぐ後にメッセベルリン専務理事のハイテッカーさんにインタビューをしたのですが、その際に「各社ともデザインを頑張っているので、ブースデザインのコンテストをやりましょう。プレスセンターの入り口に投票所を設けて、プレスの人達にお気に入りブースを投票してもらえば、ブースを作る人達も励みになるのでは」と提案したところ「それはなかなか面白いですね、業界団体に提案してみましょう」と前向きな返答が返ってきました。IFAのすぐ後に日本で開かれるCEATECは予算もあまりないという都合もあって、どうしてもモノを並べるだけで精一杯な向きがあります。対してIFAやCESでは「ブースデザインが会社のデザインであり姿勢であり主張である」というところがハッキリしているため、とても面白いと感じました。

ハイエンド商品が続々登場したソニー

麻倉氏:さてソニーの展示内容に関してですが、今年はハイエンドがゴロゴロといった感じでしたね。例えば前編で取り上げたバックライトマスタードライブ搭載の100V型テレビ「KJ-100Z9D」は700万円! レーザープロジェクターの「VPL-VW5000」はなんと800万円!! 昨年アメリカで発表した際は「日本では高価格過ぎるので、マーケティングの都合上発売はしない」としていたのですが、あまりに反響が大きかったため、急きょ日本でも発売することになりました。

 もう1つは各所で話題沸騰中のシグネチャーシリーズです。20万円のヘッドフォン「MDR-Z1R」、27万8000円のヘッドフォンアンプ「TA-ZH1ES」、30万円のウォークマン「NW-WM1Z」というラインアップですが、ワンセット全部合わせてまるっと導入すると、何と80万円近くになります。

新ブランドライン「SINGETURE Serise」として発表されたヘッドフォンシステム。妥協なきこだわりが随所にちりばめられており、全てそろえると約80万円

――おー! 価格も立派なコンポーネントだ

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