ソニーは9月8日、ヘッドフォンのフラグシップモデル「MDR-Z1R」を発表した。10月29日に発売予定で、価格はオープン。店頭では20万円前後になる見込みだ。
「IFA 2016」で発表した「Signature Series」(シグネチャー・シリーズ)の一角を担うオーバーヘッド型。Signature Seriesは、「ヘッドフォンによる音楽体験にフォーカスし、“聴く”を“感じる”領域にまで革新するフラグシップモデル」(ソニー)。シリーズ名の由来は、妥協のないクオリティーの証として、製品を開発したエンジニア達がサインをした、という意味が込められている。
既報の通り、MDR-Z1Rは70mm径のドライバーユニットを搭載し、120kHzという超高域再生を実現したモデルだ。大きなドライバーで平面波を作り、スピーカーライクな自然な音にするという狙いは2014年発売の「MDR-Z7」と同じ。ただし、今回は振動板とグリルに新素材、新形状を採用した。
まず振動板は、実際に音を出すドーム部分に薄膜のマグネシウムを採用。「軽量さと剛性を併せ持ち、ボイスコイルで発生した振動を効率良く伝達する」という。ドームの中央部は30μmという薄さに仕上げており、「おそらく世界最薄」。一方、適度な柔軟さが求められる振動板のエッジ部分にはアルミニウムコートLCPを採用した。異なる内部損失を持つ素材を組み合わせることで、色付けのないクリアな音質を実現するという。
ドライバーのグリルには、「フィボナッチ数列」を参考にして開口部を均等化した曲線のパターンを採用している。「従来のグリルは放射状のパターンだったが、特定の周波数に影響が出ることが分かった。重要なのは、すき間が均等に開いていること。新しい曲線パターンにより、倍音再生が正確になり、まるで“グリルがない状態”のような特性に追い込むことができた」(同社)
マグネットも従来にはないものだ。最大エネルギー積で400kJ(キロジューム)/m3の最上級グレードのネオジウムマグネットを用い、同社製ヘッドフォンでは最大のサイズで使用する。作り方も特殊で、プレス方向に対して磁場を横にかけるという手法を用いた。これは、マグネットになったとき、磁力を最大限に活用できる状態になるからだ。ただし、最初から環状に作ることが難しかったため、半円形にして2つを組み合わせる形になっている。さらに高効率の磁気回路を開発し、磁束ロスを最小限に抑えて入力信号に対して高い感度で反応するようにしたことで、「解像度の高いクリアな音質」を実現したという。
ハウジング内には、全面をカバーするように音響レジスターを設けている。通気を調節して密閉型ヘッドフォン装着時特有の共鳴、共振を除去することが目的だ。ハイレゾ音源に含まれる微小音を阻害せず、拾い上げることが可能になった。なお、音響レジスターはカナダ産の針葉樹のパルプを立体的に成形したもので、一年を通じて温度が均一な日本の雪解けの地下水で漉(す)き上げたという。
このほかにも同社がハイエンドオーディオ製品に採用している「高純度無鉛高音質はんだ」の使用や、銅合金の中でも抵抗値が低く強度が高いコルソン合金で製作したジャックなど、細部まで音質こだわった。
装着感の向上という点でもハイエンドモデルらしい、こだわりの部材が多く使われている。例えばイヤーパッドは本革製で、エルゴノミクスデザインに基づく立体縫製。頭の凹凸にフィットする形状で、装着時の側圧を均等に分散させる。同時にドライバー前面の気密性を高め、重低音の迫力をロスしない構造だ。
ヘッドバンドのバネ(骨格部)には、メガネのフレームなどにも使用されるβチタンを採用。軽量で弾力性に富み、頭の形状にフィットしやすいのがメリットだ。その外側(ヘッドバンドカバー)には牛革を用い、またハンガーやスライダーはアルミ合金を採用、アルミ合金の表面にはアルマイト処理を施すなど、装着性の向上と同時に高級感を演出する仕様となっている。
ケーブルは左右両出しの着脱式で、製品には標準で2種類のケーブルが付属する。1つはステレオミニプラグ、もう1つは4.4mm径のバランス標準プラグ(L型)を採用したものだ。同時発表のウォークマン「NW-WM1シリーズ」と組み合わせれば、セパレーションに優れたクリアな音が楽しめる。「4.4mm径プラグは、今年3月にJEITA統一規格となった。専門家が議論して決めただけあって音質、強度のバランスなどが良い。積極的に使っていこうと考えている」(同社)
MDR-Z1Rの再生周波数帯域は4〜12万Hz、感度は100dB/mW、インピーダンスは64Ω。重量は約385g(コード含まず)。なお、同社によるとMDR-Z1Rは同社のプロフェッショナル音響製品を長年にわたって生産している国内の工場で組み立て、シリアルナンバーを刻印して出荷するという。
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