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スマホ時代に最適化された「auの庭」?――KDDI小林氏が語るauのプロダクト戦略ワイヤレスジャパン2015

SIMロック解除義務化や、MVNOの成長を受けて、ますますオープン化が進むスマホ市場。変化する市場環境の中、大手MNOであるKDDIはどのような戦略を描くのだろうか。

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 ワイヤレスジャパン2015の初日にあたる5月27日、KDDI 商品・CS統括本部 プロダクト企画本部 理事 プロダクト企画本部長 小林昌宏氏による基調講演「オープン化するスマートフォン市場におけるauのプロダクト戦略」が行われた。本稿では、その模様をお伝えする。

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KDDIの小林氏

MNOとして選ばれ続ける企業努力

 昨今、自前で無線通信設備を持たないMVNO(仮想移動体通信事業者)が注目を集めている。小林氏は、「グローバル(世界市場)では15%程度が(MVNOが占める市場シェアの)限界という指摘もあるが、日本のホスピタリティ(おもてなし)がうまく機能すれば、それを超える(普及率となる)可能性がある」と指摘する。

 実際、KDDI総研が行ったMVNOユーザーの満足度調査では、「満足」と「やや満足」を合わせると85%に達している。「(MVNOには)一定のニーズが存在し、そこに“当たる”(満足する)という現実は確かに存在する」(小林氏)のだ。MVNOを選択するユーザーの多くは、ランニングコストを重視して選択する反面、キャリアメールが使えない、データ通信速度が遅い、など不満点も持っている。

photophoto 急速に成長するMVNO市場(写真=左)。MVNOユーザーの満足度は高い(写真=右)
photophoto MVNOユーザーは“安さ”に引かれて選択する傾向にある(写真=左)一方、キャリアメールが使えないことを始めとして、一定の不満もある(写真=右)

 今後、サービスの二極化が進むことを予想する小林氏。無線設備とサービスプラットフォームを持つMNO(移動体通信事業者)として、KDDIはこのような二極化の進む市場でどのように戦っていくのだろうか。その鍵となるのが、「新たな体験価値の提供」だ。「購入したら終わり、契約してもらったら『勝ち』」(小林氏)という姿勢から、「購入、契約してもらった後の満足度を高める」(同氏)方向性に転換し、MVNOにはない、MNOならではの価値を訴求していく。

photophoto 二極化が進む市場(写真=左)で、KDDIは購入後の満足度を高めることで競争に積極的に挑む(写真=右)

 今まで、スマートフォンは品質・性能面で成長過程で、スペックの向上が使い勝手の向上にもつながっていた。そのため、商品戦略でもスペックを重視する傾向にあった。しかし、スペック向上が落ち着き、使い勝手の面でも不自由が少なくなり、競合MNOから同じ端末が出るようになった現在では、スペック偏重の戦略では立ちゆかない。そこで、端末・ネットワーク・サービスが「お客さまにぴったり」(小林氏)で、「全体がひとつのアレンジでつながっている」(同氏)状態で提供することを重視するように改めたという。まさしく、“三位一体”を地で行く戦略だ。

photophoto スペック重視(写真=左)から、端末・ネットワーク・サービスの一体性を重視した(写真=右)商品戦略に
photophoto 春モデルの「BASIO」「miraie」と、新宿伊勢丹で販売された「INFOBAR A03」の限定版は、新しい商品戦略の典型例

IoTに向けた取り組み

 最近、話題となることが多いIoT(Internet of Things:モノのインターネット)。世の中のあらゆるものに通信モジュールが組み込まれ、ネットワークにつながる時代に向けて、KDDIでは既に“布石”を敷いていた。

 2014年12月に発売された「Fx0 LGL25」がその布石だったのだ。このスマホは、“第3のOS”として「Firefox OS」を搭載していることが注目されているが、KDDIとしては、Webアプリとモノを、インターネットを介してつなげて動かす一例を示す意図も併せ持っているという。

photophoto 「第3のOS」を使ったスマホとして注目された「Fx0 LGL25」には、IoTへの入り口を作る、という意図もあった

 KDDIでは、自動車におけるIoTにも注力している。その一例として、自動車のモバイルデータ通信を、現状では閉域化されている自動車のコントロールユニット(ECU)にも拡大する、という研究を紹介した。

 ハイブリッドカーのエンジン・モーター・ブレーキの制御、衝突回避システムの搭載――と、昨今のECUのプログラムは、複雑化の一途をたどっている。現在は、自動走行システムの研究開発が進んでおり、ECUプログラムのさらなる高度化は避けられない。

 しかし、プログラムである以上、不具合も発生しうる。自動車でのプログラム不具合は、場合によっては事故につながりかねないので、修正プログラムが出たらすぐに適用すべきなのだが、現状では、ディーラーや整備工場に自動車を持ち込まないと更新ができない。

 もしも、プログラム更新にモバイルデータ通信を利用できれば、自動車を工場に持ち込む手間が省けるが、今度はネット経由でのクラッキングや不正プログラムの書き込みといった新たなリスクを抱えることにもなる。

 そこで、通信事業者としての知見を生かし、SIMカード(組み込み用のeSIMカード)を車内ネットワークのトラストアンカー(電子認証の基準点)として用いる研究を、子会社であるKDDI研究所で行っている。具体的には、SIMカードにJavaアプリの実行領域を設け、暗号キーの生成とECUへの配信と、リモート更新時のファイアウォールにする実験を行っており、模型レベルの実験では成功している。今後、実証実験などを通して、実用化を目指す。

photophoto 自動車の自動運転に向けた課題を、通信事業者の知見を生かして解消する研究を進める
photophotophoto SIMカードをトラストアンカーとして活用する

おまけ:筆者の感想

 筆者は、講演の前半で「auの庭で。」というかつてのキャッチフレーズを思い出した。

 スマホは、アプリやWebサイトを介し、オープンで、誰にでも開かれているサービスを使いやすい。それだけに、今までのように通信会社、あるいは端末の枠にとらわれることが少なくなっている。MVNO各社が提供する「格安SIM」が脚光を浴び、キャリアを通さず販売される「SIMロックフリースマホ」が携帯電話の売れ筋ランキングに入るようになったのは、その証左である。

 しかし、(筆者の職業病だが)キャリアショップでの店員と客のやりとりや、電車などでいろいろな人のスマホの使い方を観察していると、その「オープン化」がどうしても“正義”だと思えなくなるシーンが多々ある。スマホにあこがれ(あるいは周囲がみんなスマホだから)、スマホを買ったものの、そのオープンな世界についてこられない、あるいはフルに生かせない――そんな人があまりに多いのだ。

 KDDIは、そんな人たちのために、端末・ネットワーク・サービスをあえて統合し、スマホ時代に最適化された「auの庭」を再現しようとしているように思える。ただ、以前と違うのは、「庭」にしばられて、外(オープン世界)に出られない、あるいは出られたとしても「がんじがらめ」で使いづらい、ということがないことだ。今のキャッチフレーズである「選べる自由」がしっかりある庭なのだ。

 進化した「auの庭」は、オープン化時代の戦略として、大いに「あり」なのではないだろうか。

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