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「それでいい、楽しいから」――7万人の町「GREE」を一人で作ってる会社員ITは、いま

» 2004年07月30日 08時00分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 「趣味でポルシェ買ったり、世界一周旅行する人もいれば、趣味でインターネットサービス作る人がいていいじゃない」。

 ソーシャルネットワーキングサイト「GREE」を“趣味”で開発・運営している田中良和さん(27)は言う。

 GREEは、7月29日現在で7万1364人が利用する国内最大規模の無料ソーシャルネットワーキングサイト。ユーザーからの招待があれば、誰でも無料で参加できる。

 7万人超のコミュニティサイト。企業が維持するのも大変な規模だが、開発やサポートは田中さん一人だ。田中さんはある大手IT関連企業の社員。といってもGREEは仕事とは無関係。作業は終業後や休みの日などに行う。サーバ費用などはすべて自己負担だ。

GREEユーザーページの例。登録した友人の画像と紹介コメントが1画面上に表示される

 GREEからの収入も、ない訳ではない。サイト内にGoogleのアドワーズ広告を表示しているほか、Amazonのアフィリエイトサービスを導入。ユーザーが紹介した本やCDがレビューを通じて購入されれば、売り上げの数%が支払われることになっている。しかし……。

 「儲かりませんよ。Amazonのアフィリエイトは、レビューサービスを使いたいから入れてるだけ。アドワーズも、タダで貼れるんだから貼ってみよう、くらいの気持ち」。サーバのレンタル費用など到底カバーできない。私財を投じて、運営を続ける。

 でも、それでいい、楽しいから、と田中さんは笑う。「町を作っている感覚。『シムシティ』リアル版みたいな。今日はビルが建った、今日は線路が通じた。住民は今日も幸せだった、みたいな」。

 7万人超の人が住む。GREEという町。

 多忙な仕事の合間をぬって作った理由は、仕事が忙しかったから、だ。

リアルの友達と繋がるために

 忙しくて友人との時間がなかなか取れなかった田中さん。会えない友達とつながる仕組みを作りたいという思いから生まれた。

 「田中角栄さんが寝る前に、その日にもらった名刺を全部見直していたというのを知り、僕もやってみたことがあって。寝る前にアドレス帳とか携帯のメモリ見て、こいつどうしてるかなとか、明日誰と遊ぼうかなとか」。

 アドレス帳や携帯に頼らなくても、友人の情報をまとめて管理したり、友人をより深く知り、コミュニケーションを円滑にするためのツールを作れないだろうか。こんな着想がGREEの出発点だった。

 去年の秋に開発をスタート。アメリカのソーシャルネットワーキングサイト「Friendster」などをヒントに、本やCDのレビュー機能、Blog(ブログ)を取り込む機能を取り入れるなど、自分が本当に使いたいと思えるサービスを目指し、試行錯誤を繰り返した。

 友人の紹介がないと利用できなくしたのは、GREEを、バーチャルな世界で知らない人と出会うためではなく、現実社会の友人との交流を深めるツールにしたかったから。「現実社会で人と知り合うときは、知り合いづてで紹介を受けることがほとんど。それと同じ仕組みを目指した」。

 「ネットは確かに、世界中の知らない人と出会えるツールかもしれない。でも、普段チャットやメールしてる相手の99%は、毎日会ってる友人だから」。

 ネット社会の人間関係も実は、リアルの世界とそう変わらない。ネットと現実の間にラインを引く従来の見方に疑問を投げかける。

「現実=実名、ネット=匿名」の嘘

 「例えば、インターネットは匿名で、現実社会はそうじゃないと言われがちだけど、そんなことはない。合コンで知り合った女の子に、名刺は渡すかもしれないけど、戸籍謄本を見せたりはしない。リアルな付き合いの中にも、クローズドの情報はきちんとある」。

 ネットも現実社会と同様、匿名の部分と実名の部分、両方があっていいはずだと田中さんは言う。「世の中とネットは同じだと思うし、同じにしたい」。

 実名参加が基本のGREEだが、個人情報を公表するのが不安なら、名前も誕生日も職業も、非公開で参加可能だ。現実社会と同じさじ加減で、公開する情報を選べばいい。

 「でも、50年後、100年後には多分、名前を検索すれば、その人の年齢とか職業とかいうオープンな情報はすぐに分かってしまう時代が来る。友人誰もが知ってるような情報をあえて隠すことって、長い目で見れば、無意味だと思う」。

 ネットで個人情報を公開することにはリスクがあるし、怖いイメージもつきまとう。「でも、それで人が死んだりとか、破産したりとか、そんなクリティカルなことには多分ならない。むしろ、昔の知り合いに再会できたり、意外な人間関係が築けたりするメリットの方が大きい」。

 メールやWebサイトを使えば、たった1人の情報源が、瞬時に何百人、何千人、何万人に情報を公開できてしまう時代。情報を得るためのコストはどんどん軽くなっていて、この流れは止められないと田中さんは言う。時代の流れに逆らわず、それに乗ってみた上で、世の中がどう変わるか、どうしていけばいいかを考えたいと。

 世界がこれからどうなるか、GREEがこれからどうなるかなんて、分からないから。

「GREEは“子ども”。目的なんかない」

 「GREEのユーザーは増やしたい。ユーザーが増えれば、サービスの質も変わると思うから。でも、GREEをどんな形にしたいのかとか、10年後どうなっているかなんて分からない。誰かに教えて欲しいくらい」――投げやりな言い方ではない。分からないことを楽しんでいるかのようだ。

 「世の中って分からないことの方が多いから。あなたの人生の目的は何ですか?とか、今、ご飯食べてる目的は?とか、分からない」。

 分からないけど、分からないなりに、生きていく。

 「GREEは僕にとって子どもみたいなもの。子どもが生まれる前から『子ども年表』みたいなのを作って、子どもの将来とか、いつ死ぬかとか決めたりしないでしょう?『あなたの子どもの目標あるんですか』とか、『将来のプランがないなんておかしい!』なんて言う人もいないし」。

 現実社会の対局にあるかのように語られてきたネット社会を、現実社会と同じ土俵に引っ張ってこようとするGREE。ユーザーは、そこで友人についてより深く知り、そこでの出会いをきっかけに就職を決めたり、恋人を見付けたり、たまにはトラブルを起こしたりする。

 「7万人もいれば、そりゃ、いろいろあるよ。現実社会と同じで」。

「“分からないこと”って大切だと思う」と、田中さん

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