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“テレビCM崩壊”時代、ネット広告の役割とは

» 2006年10月11日 18時13分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 「テレビCMの効果が薄くなってきたと今になって言われるが、テレビCMは前から“トイレタイム”と呼ばれていたではないか」

 ネット広告業界のキーマン3人が、10月11日都内で開かれた時事通信のセミナーで、テレビ広告とネット広告について講演した。テレビは大量の人に1つの情報を発信するのに長けているのに対し、ネット広告は情報を欲している人に限定して配信でき、コストもそれほどかからないというメリットを指摘。「企業が“商品に合った消費者”を探す時代から、消費者が自分に合った商品を探す時代になった」などと語った。

画像 100人以上が詰めかけ、会場はほぼ満員に

 講演したのは、博報堂、電通を経てグーグルで広告ビジネスを担当している高広伯彦さん、書籍「テレビCM崩壊」(翔泳社)を翻訳し、米国で広告コンサルティング業を行っている織田浩一さん、博報堂、ヤフーを経てサイバーエージェントに勤務する須田伸さんの3人。

 高広さんは、テレビCMはもともと「捨てられていた時間だ」とし、冒頭のように語った。テレビの視聴率はCM中に落ちている、という調査結果も実際にある。織田さんが紹介した米国の資料によると、人気番組「CSI:科学捜査班」のCM中の視聴率は本編より15%落ちていた。「ER 緊急救命室」「American Idol」でもそれぞれ6%減、8%減だったという。

 別の調査では、TiVoなどのDVR(Digital Video Recorder)が普及したことにより、2006年の米広告費740億ドルのうち80億ドルに影響が出た可能性があるという試算も。DVRに録画された番組が、録画から7日間以内に見られた数をカウントし、テレビ視聴率に足し合わせるDVR視聴率調査では、人気番組で5%程度の視聴率アップとなったが、CMの視聴率は1%未満だったという。

 視聴者に降り注ぐ広告の量も急増しており、1つ1つの広告メッセージの力は薄まっている。平均的な米国人が1日に浴びる広告・マーケティングメッセージ(ロゴなどを含む)の数は1980年代は500程度だったが、現在は3000〜5000程度に増えており、前夜に見たブランドを思い出せる確率は、1965年は34%だったのが、2000年には9%にまで急減した。

テレビは「土足」だが……

 織田さんによると、テレビを始めとしたマス広告は、米国のネット業界では「土足で踏み込んでくるもの」(intrusive)と言われているという。視聴中のコンテンツを邪魔し、見たくないのに流れてきてしまう――というとらえ方だ。

 高広さんは「日本には『消費者のためになった広告コンクール』というものがあるが、広告が常に消費者に役立っているなら、そんなコンクールがあること自体がおかしい」と指摘。広告は消費者にとって邪魔で役立たないものになってきていると語る。

 とはいえ消費者は、自分に関連の深い情報や興味がある情報なら、広告でも積極的に取り入れようとする。「企業が“商品に合った消費者”を探す時代から、消費者が自分に合った商品を探す時代になった」と高広さんは言い、ネットを使えば、消費者と関連の深い広告だけを表示することができると語る。

 Googleが得意とする検索連動広告やコンテンツ連動広告は、そういった仕組みの1つの例だ。高広さんによるとGoogleには「検索結果ページには、関連性のない情報は表示しない」というポリシーがあるといい、キーワードと広告との関連性を高めることで、広告クリック率も上がっている。

 地図を使ったローカル広告でターゲットを絞り込む試みや、「行動分析型」と呼ばれる広告も盛り上がってきている。行動分析型広告とは、ユーザーのWeb上での行動をトラッキングし、ユーザーのし好に合った広告を表示するという仕組みだ。

 例えば、フォルクスワーゲンが昨年行ったキャンペーンでは、ユーザーの行動をトラッキングし、過去半年間に車に関する情報を検索した経験があり、かつ、同社サイトを訪れたが車のカスタマイズモデルを表示するサービスを利用したなかった人・パンフレット請求をしなかった人に限定して、同社サイトの広告を配信した。

 効果はめざましかった。従来、カスタマイズサイト利用者やパンフレット送付希望者は1カ月に数千人程度だったが、キャンペーン中はそれが3〜4倍に上がり、カスタマイズモデルの表示を1万9000人が、パンフレット送付を1万2000人が希望した、という。

口コミという“広告枠”

 SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を活用した口コミマーケティングも広がっている。ハンバーガーショップのWendy'sが世界最大のSNS「MySpace」にオリジナルキャラクターの個人アカウントと動画を掲載したところ、キャラクターのフレンドリストには10万人以上のユーザーが登録され、同社のターゲットである10代の間で活発な口コミが発生した。

 口コミを発生させるには、コンテンツのエンタテインメント性も重要だ。2004年にBurger Kingが行ったキャンペーン「Subservient Chicken」は、画面上のチキンにテキストで命令し、命令通りに動かすことができた。このサイトは日本でも話題になり、のべ数十億回の「命令」が入力されたという。ネットなら、口コミが国境を越えることも少なくない。

 ブログやSNSでの口コミや、無料や安価に利用できる配信システム・媒体を広告に活用した場合は、広告枠を買い取る費用も節約できる。「従来は広告コストの2〜3割が製作費に回り、残りは枠を買い取る費用になっていたが、ネットではそれが逆転することもある」(織田さん)

 例えばBMWは2001年、高品質なショートフィルムを3億円かけて作り、ネットに公開した。テレビCMの枠を買い取る必要がなく、露出にかかるコストがテレビよりも安価に済む。このフィルムは8カ月間に1400万回見られ、「友達に知らせる」メールは300万通も送られたという。映像を見た層の40%が年収7万5000ドル以上と、ターゲットへのリーチ率も高かった。

 口コミマーケティングや動画広告、エンターテインメント広告など、ネット上ではさまざまな形で広告展開できる。ネット広告を成功させるには、ターゲット層がどんなネットサービスを活用しているのか、また、どんなコンテンツなら楽んでもらえて、他人に伝えたい、と思ってもらえるか――といったことを慎重に分析することが重要になりそうだ。

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