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「オープン性と質の両立は難しいが……」――Wikipedia創設者が来日(1/2 ページ)

» 2007年03月23日 20時45分 公開
[岡田有花,ITmedia]
画像 「人を信じることが重要」とウェールズ氏

 「オープン性と記事の質は、難しいトレードオフの関係にある。Wikipediaの記事の質を高めるのは簡単ではないが、ユーザーを信頼し、啓発していきたい」――来日したWikipedia創設者のジミー・ウェールズ氏は3月23日、都内で開かれたシンポジウムでこう語った。

 Wikipediaは誰でも編集できるオープンなWeb百科事典で、英語版は170万以上、日本語版は34万以上の項目がある。ただ、自由に書き込めるだけに、記事の間違いを根絶することは難しく、悪意のあるユーザーが意図的に事実をねじ曲げて記入することもある。

 ウェールズ氏は「規模が大きくなるにつれ、質を高める必要性が増していく」と語り、自由さを保ちながら質を高める、という難しい挑戦を続ける。その先には、自由に利用できるコンテンツを組み合わせ、人々が新たな文化を創造する時代の到来を夢見る。

 シンポジウムは、情報通信政策フォーラム(ICPF、代表:西和彦氏)が主催した。西和彦氏と、ICPF理事を務める池田信夫氏も参加。両氏や会場からは、Wikipediaの記事の信頼性や、トラブル対策に関する質問が多く出た。

Wikipediaの「フリー」とは

 Wikipediaは、非営利団体のWikimedia Foundationが運営する多言語百科事典プロジェクト。年間200〜300万米ドル程度の運営費用は寄付金でまかなっている。寄せられる寄付金は50〜100ドルと少額なものがほとんどで、昨年は欧米を中心に50カ国以上から寄附を受けたという。

 「Wikipediaはフリーアクセスだ」――ウェールズ氏は、リチャード・ストールマンが提唱したフリーソフトの4つの自由――利用、修正、コピー、再配布の自由――を引き合いに、Wikipediaも誰もが自由に閲覧・利用できる知識の体系にしたい、と語る。「例えば、Wikipediaコンテンツをまとめて発展途上国で販売できたら、それも喜ばしいだろう。常に慈善プロジェクトである必要はない」とビジネス利用にもオープンだ。

 Wikipediaのゴールは、世界で100万人以上が使っている347言語について、25万の項目を掲載すること。現在、世界の総項目数は約450万。うち3分の2が英語以外の言語で書かれている。10万項目以上ある言語は日本語を含めて11、1万項目以上ある言語は54、1000項目以上ある言語が128。20〜30の項目しかない言語も多数あるという。

信頼性は「相対的に高い」が……

 Wikipediaの記事の信頼性については、何度も議論されてきた。ウェールズ氏は「記事には間違いもあるが、信頼性は相対的に高い」とし、その理由として、間違いがあればすぐに誰かが訂正できることや、記事内容に問題があればディスカッションできる仕組みがあること、複数のソースを比較できることを挙げる。

 英国の科学雑誌Natureは、Wikipediaが英国の百科事典・Encyclopedia Britannica並みに正確、とする調査を発表した。「報道機関に『Wikipediaの情報はゴミのようなもの』と書かれることもあったが、これは喜ばしい結果」とウェールズ氏は言う。

 ただBritannicaは「Natureの調査は間違っている」と反論(その後Natureは再反論した)。最近では、神学教授をかたっていたWikipedia管理者が、24歳の大学中退者だったことが発覚し、対応を迫られるなどといった問題も起きた(関連記事参照)

自分で自分の経歴を編集するのはNG?

 Wikipediaの信頼性をめぐる議論は、日本でも起きている。西和彦氏は以前、Wikipedia日本語版に自分の経歴が誤って書かれているとし、自ら編集・削除したことで話題になった。

 ウェールズ氏は「今生きている個人の経歴の問題はとても複雑だが、本人による修正は、あまりやるべきでない」と語る。英語版Wikipediaでも、ある女優が自分の経歴を匿名ですべて削除してしまった、というケースがあったが、荒らしと判定され、1分後元の状態に戻されたという。

画像 西氏は経歴問題について自ら言及しなかったため、池田氏(=写真)が水を向けた

 「間違った経歴を書かれることは個人的には不快だろうし、私も自分の経歴を自分で訂正したことがある。ただ、匿名でいきなり消してしまったりすると、荒らしに間違われることもある」(ウェールズ氏)

 とはいえウェールズ氏は、泣き寝入りしろ、と言っているわけではない。「内容に問題がある際は、トップページでのディスカッションして欲しい。平和的に話し合い、コミュニティーに評価してもらうことで、記事を不快に思う人の不快感も取り除きたい」

 池田信夫氏は、英語版Wikipediaの従軍慰安婦に関する記事に問題があると指摘する。ウェールズ氏はこれに対して「歴史上の複雑な出来事も、公平な目で見、反対意見に対してもフェアでないといけない。友好的なアプローチを取っていきたい」と語った。

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