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スクープも紙より先にWeb掲載 「MSN産経」の本気度

» 2007年09月25日 14時56分 公開
[岡田有花,ITmedia]
画像 マイクロソフトのダレン・ヒューストン社長(左)と、産経新聞社の住田良能社長

 「紙とネットの間にある高く厚い壁を破壊していかなければならない」(産経新聞社の住田良能社長)

 産経新聞のWeb版「Sankei Web」をMSNに統合したニュースサイト「MSN産経ニュース」が10月1日にオープンする。これに先駆けて産経新聞は、国内新聞社で初めて、紙とWebの編集部隊を統合。「ウェブファースト」を掲げ、スクープ記事も新聞発行を待たずに掲載するなど“出し惜しみしない”紙面構成にする。

 一般的な新聞社のニュースサイトはこれまで、新聞記事の一部のみ抜粋して掲載したり、スクープ記事は新聞が配達される時間を待ってから掲載する――といった形で、紙の新聞の“領域”を侵さないよう配慮したものが多かった。

 だが産経新聞は、紙とWebを切り分ける意識から脱し、Web時代の新しい報道機関の姿を模索していきたいという。「読者のニュースへの接し方が変わっている。もはや紙かネットかの択一ではない。ネット時代の報道機関としての使命を果たしていきたい」(住田社長)

編集部隊、紙もWebも統合

画像 MSN産経ニュース

 MSN産経ニュースは、マイクロソフト(MS)と産経新聞、産経新聞の戦略子会社・産経デジタルが共同で運営するサイトだ。「出し惜しみは極力しない」(近藤取締役)方針で、これまで紙への掲載が優先されてきたスクープ記事や目玉連載、解説記事なども掲載していく。「情報の早さだけでなく、質の高さも重視したい」(住田社長)

 サイト公開に先立って、産経新聞編集局の改革を行った。これまで別々だった紙の新聞とWebの編集部隊を統合。4人の編集長が交代で紙面とWebのニュース編集両方を指揮する。国内新聞社で初の取り組みという。

 記者はWeb用・紙用の別なく記事を書き、内容によってWeb・新聞に掲載するか、両方に載せるかを編集長などが選別。Web限定掲載で反響があった記事を改めて紙面に掲載する――といった取り組みも行う。

 記者のWebに対する意識向上にも取り組んできた。産経新聞の発行部数は全国で約200万部だが、産経グループサイト全体の月間ユニークユーザーは約2000万人。「10倍の読者に向けて記事を書けると記者たちは燃えている」(産経デジタルの阿部雅美社長)

 サイトには、ユーザーの関心が高いニュースを「トピックス」として掲載し、関連サイトへのリンクや付加情報などを掲載。新聞社サイトでは1〜3カ月が平均という1記事の掲載期間は6カ月に延ばすほか、掲載期間を設けず半永久的に掲載する記事も一部あるという。

 特集も充実させる。MSN産経の独自連載として「インターネットが変えたもの」「記者は見た、世紀の事件」を10月1日から掲載。特集の一部は後日紙面にも載せる。

メッセンジャー連動や動画も

 「紙面を限定されない」というWebの強みをいかした取り組みも行う。新聞では掲載できなかった重要裁判の冒頭陳述や政治家の会見内容を全文掲載。報道写真の一部は、1024×768ピクセルと大きなサイズで提供する。

画像 メッセンジャーと連動も

 MSの技術もいかす。Windows Live Messengerと連携し、メッセンジャー画面にニュースを表示して友人と共有できる機能や、キーワードにマウスカーソルを合わせると検索結果を吹き出しに表示する「サイドビュー」機能、ニュースを配信するWindows Vistaガジェット、ブログパーツなどを提供する。

 産経が2年前から試験的に撮影してきた動画コンテンツを「MSN ビデオ」に配信する試みも行うほか、メディア再生プラグイン「Silverlight」活用にも取り組む。

 当初の目標は、Sankei Webのページビュー(PV)の「数倍」(阿部社長)を稼ぐこと。Sankei WebのPV・UUは非公開だが、9月いっぱいまで展開している「MSN毎日インタラクティブ」の月間ページビュー(PV)は約3〜4億で、「Sankei Web」「iza!」「zakzak」などを含めた産経新聞グループ全体のPVは月間約3億5000万だ。

 収益は広告から得る計画。産経デジタルとMSが営業活動を行う。

「ネットを制限しても、紙を守ることにはつながらない」

 産経グループは、ブログと連動したニュースサイト「iza!」を他新聞社に先駆けて展開するなど、Webへの取り組みを積極的に進めており「タブーにも挑戦してきた」と阿部社長は自負。MSN産経の企画にも、iza!の経験がいきている。

 ただWeb事業からの収入は、産経新聞グループ全体の売り上げ(年間約2200億円)の「数%程度」(近藤取締役)といい、ビジネスモデルは発展途上。スクープ記事までネットに載せてしまうと、紙の新聞の販売が減るのでは――という懸念もある。

 だが「ネットの取り組みを制限しても、紙を守ることにはつながらない」(近藤取締役)とし、ネットに果敢に攻めていく方針だ。「ネットの報道はまだ始まったばかり。紙とは違った報道の形を模索していきたい」(阿部社長)

 MSNと袂を分かった毎日新聞社はこのほど、独自サイト「毎日jp」を発表したほか、他新聞社も合従連衡がうわさされるなど新聞業界のWebへの動きが活発化している。「他社も大きな連携の動きがあると聞いているが、切磋琢磨しながら、ネット時代の報道機関の使命を果たしていきたい」(住田社長)

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