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「JEITAの対応、憤り禁じ得ない」と権利者団体 私的録音録画補償金問題で

» 2007年12月17日 20時03分 公開
[岡田有花,ITmedia]
画像 左から実演家著作権隣接センターの松武秀樹さん、JASRACの菅沼端夫さん、実演家著作隣接権センターの椎名和夫さん、日本音楽作家団体協議会の小六禮次郎さん、日本映画製作者連盟の華頂尚隆さん

 日本音楽著作権協会(JASRAC)など著作権者側の87団体は12月17日、電子機器メーカーの業界団体・電子情報技術産業協会(JEITA)に対して11月9日に送付した、私的録音録画補償金問題についての公開質問状で、回答期限の12月7日までに返答がなかったとし、「極めて遺憾で憤りを禁じ得ない」などと表明。誠意ある対応を改めて求めた。

 私的録音録画補償金問題については、権利者側とJEITAの主張が対立している。権利者側は、地上デジタル放送の録画ルールの緩和には補償金制度が必須だとし、「ダビング10」の合意にも補償金制度の継続は含まれているという立場だ。

 だが合意後、JEITAは「DRM(デジタル著作権管理)があれば補償金は不要」とする意見を表明。権利者側は不信感を募らせ、公開質問状で「コピーワンス緩和の合意を破棄するのか」とただした(関連記事参照)

 JEITAは質問状に回答せず、期限の7日に掲載されたInternet Watchの記事で、JEITA著作権専門委員会の亀井正博委員長が「正式な審議の場があるのに、場外でやりあうというのはどうでしょうか」と、公開質問状をプロレスの場外乱闘になぞらえて批判。私的録音録画小委員会など公式の議論の場で回答する――と説明している。

「場外乱闘に持ち込んだのはJEITAだ」

 記事によると、JEITAが公開質問状に回答しない理由として、亀井委員長は、「公開質問状は、(消費者代表も参加する)正式な議論の場とは異なる場所で言い合うことになる。消費者を置き去りにするようなもの」と説明している。

 「これはものすごく根拠のないアバンギャルドな発言だなと思う」――実演家著作隣接権センターの椎名和夫さんは批判する。「JEITA・権利者団体という2者だけでどうこうする問題ではないからこそ“公開”質問状という形にした。当事者間だけで手を握ろうという話ではない」

 「場外乱闘などと言うが、合意したはずの内容について、反対意見をWebサイトに掲載し、最初に場外に出たのはJEITAだ」と、日本映画製作者連盟の華頂尚隆さんも批判する。

JEITA「18日の小委員会で回答したい」

画像 JEITAが送付してきた書面を手にする椎名さん

 回答期限5日後・12月12日付けで、JEITAから権利者団体に対して書面が送られてきたという。JEITAの町田勝彦会長(シャープ会長)名で、「補償金については11月28日の録音録画小委員会の席上で話す予定だったが、発言の機会を逃してしまった。期限を過ぎて恐縮だが、12月18日の小委員会で発言したい」という内容が記されていた。「『回答しない』と言っておきながら、期限の5日後になってこれが出てくるとは何なのか。JEITAは本当に一枚岩なのか」(椎名さん)

 JEITAの知財・法務部が、他部門の意思に反して“暴走”しているのでは――という見方まで飛び出した。「あるメーカーのBlu-ray DiscのCMで『デジタル生まれ、映画育ち』というのがあった。そのメーカーの広告宣伝部は、ソフトとハードが両輪となって文化を支えてきたことを理解しているのだろう。メーカーの知財・法務部は、ソフトをないがしろにしている」(華頂さん)

ダビング10は「凍結も」

 権利者側は、補償金制度の継続は「ダビング10」の合意にも含まれていると主張してきた。JEITAが主張する通り、補償金制度を廃止するという方向に議論が流れるのであれば「ダビング10への移行が凍結される可能性がある」(椎名さん)とする。

 「JEITAはダビング10には合意し、補償金制度の維持には反対する。一方の議論では合意し、他方では反対するというのはどうか。一貫性のない発言で、コピーワンス緩和の実現も危うくなる」(椎名さん)

 今年8月に公表された総務省の情報通信審議会の第4次中間答申は、ダビング10の導入を促しつつ、コピーワンス緩和の前提として「コンテンツの適切な保護」「クリエイターが適正な対価を得られる環境の実現」について配慮するよう求めている。ただこれは、補償金制度の維持に直接言及しているわけではない。

 JEITAは「DRM入りのデジタル放送はコピー回数を制限できるため、コンテンツは適切に保護され、経済的不利益にはならない」と主張。権利者側は「コピーが可能である限り、適切な対価を得られる保証はなく、補償金の対象になる」と主張している。この見解の相違が問題の原点では――という指摘に対して椎名さんは「権利者が適切な対価を確保できる制度は現状、補償金しかない。答申の内容も、補償金を指している見なさざるを得ない」と話す。

 記者からは「補償金など著作権の制度設計それ自体が性悪説に立っているのでは」という指摘も。「性善説に立ちたいのはやまやまだが、携帯電話サイトなどでは善悪を判断できない青少年が権利侵害している状態。権利者側だけ性善説には立てない」(日本音楽著作権協会の菅原瑞夫常務理事)

冷静に判断してほしい

 「EPNやDRMを活用すれば、誰が何回、何を使ったかまで管理できるというが、そんな時代が本当に望ましいのか」――小六禮次郎さん(日本音楽作家団体協議会)は言う。「『これぐらいなら自由に使ってもいい』と担保できるのが補償金。(総DRMでガチガチに縛るよりは)使う人にも利があるのでは」

 菅原常務理事も「補償金制度は、利用者がある程度自由にコンテンツを私的利用でき、ハードメーカーは対応ハード販売で収益を得られ、権利者にも対価が入る仕組み。前向きな方向で議論できないだろうか」と提起する。

 椎名さんは「権利者側は補償金制度の維持、JEITAは廃止、と議論が極限化しているが、1度冷静に見てほしい。特にメーカー側の経営レベルの方々に、冷静に判断してほしい」と話す。

著作権、文化面から議論を 「Culture First Japan」

 欧州の一部地域では、日本よりも多くの録音録画補償金が徴収されている例もある。「そういう地域で補償金を支払っているのは日本の機器メーカー。欧州では支払っておいて、日本では不要と主張するのにも頭に来ている。外への顔と内への顔が違う」(椎名さん)

 また新たに、権利者の立場から著作権制度について考え、議論する場を作る予定だ。「著作権に関するこれまでの議論は経済・技術論が多く、文化という視点がなかった。欧州では2006年から文化の価値を訴える『Culture First』という運動が起きている。日本でも『Culture First Japan』という名で、権利者の思いを伝えたい」(菅原さん)

 Culture First Japanのイベント第1回は、来年1月15日に開く予定だ。

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