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米国から京都へ はてな近藤社長の真意は(1/2 ページ)

» 2008年02月20日 00時00分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 「最低2〜3年はいる」。そう言って日本を出、米国シリコンバレーに飛び込んだはてなの近藤淳也社長が、1年半で日本に帰ってきた。この4月、はてなは本社を東京から、創業の地・京都に移す。

 米国でやり残したことは、たくさんある。それでも日本に戻ると決めた。日本の京都から、世界に通用するネットサービスを作りたい。任天堂が京都から世界に、「Wii」を送り出したように。

米国では「これから」だったが……

画像 近藤社長

 2006年7月、米国シリコンバレーに設立した子会社Hatena.Inc。オフィスを構え、近藤社長は妻の令子さん、開発スタッフと3人で、現地に移り住んだ。

 第一線のWebエンジニアが賞賛しあい高めあう、シリコンバレーが好きだった。渡米した直後に参加した、Webアプリのイベント「Future of Web Application」。「digg」や「WordPress」開発者がヒーロー扱いされるのを目の当たりにし、自分の仕事にも自信が持てた。

 米国に腰を据え、世界に通用するサービスを作ろう。翻訳者や秘書を雇い、会社の体制は整った。最初の1年半は準備期間。まさにこれから米国に、Hatena.Incの存在感を、近藤が来た意味を、刻みつけようとしていた。「3年以内に結果を出そう」。そう考えていた。

 しかし日本のはてなは、近藤社長なしでは回らなかった。

米国にいる意味が、なくなってきていた

画像 淳也くん「初号機」(左)と「弐号機」

 インターネットがあれば、日米の距離は乗り越えられると思っていた。Skypeに接続したPCと電話会議システムを組み合わせた可動式ディスプレイ「淳也くん」。これを使い、シリコンバレーから東京本社の会議に参加した。

 確かに、いつでも話はできた。それでも足りないコミュニケーションがあった。「Skypeだと、必要な時間しかしゃべらない。やっぱり、その場にいないと」。新サービスの開発も、日米で連携するのは難しかった。

 社内コミュニケーションのため、面接のため、サービス開発のため――テレビ会議や帰国の頻度が、どんどん増えていった。当初は3カ月に1回程度帰国する計画だったが、最後の半年は半分くらい日本で過ごした。米国に住んでいる意味も、薄れてきていた。

 米国滞在中に、MonaOSを開発した蓑輪太郎さんや、「Rimo」を開発した神原啓介さんなど数人が退職した。「ぼくが東京のオフィスにいなかった影響も、あるかもしれない」

 日本のネット業界に、停滞感も感じていた。日本のはてなは今、日本のネットに、日本のユーザーに何ができるか。何をすべきか――

 米国で人を雇い、世界向けサービスを開発し、成功するまでに、あと3年はかかるだろう。それまで日本のスタッフには、自分なしでがんばってもらうべきか。あるいは帰国し、自分も日本向けサービスに改めて集中するか。

 2つ同時にはできない。二者択一を迫られた。

本社の取り壊し、決まる

画像 はてな東京オフィスのあるこの建物は、9月に取り壊される

 本社を東京から京都に移すきっかけは、別にあった。昨年夏ごろ、今の東京オフィスの建物の取り壊しが決まった。移転先をどうするか――無難な選択は、東京で新オフィスを借りること。だが、京都に戻りたかった。

 なぜ京都? そう尋ねると「よく聞かれるんですけどね」と苦笑する。「京都が好きだから」。一番の理由は、説明できないそんな思い。03年に東京に来た時から「いつかは京都に戻りたい」と、ずっと思っていた。

東京に来た目的は、達成できた

 ネットサービス構築という「もの作り」に、東京はちょっとやかましすぎた。「東京は情報が多すぎる。ものづくりはユニークさの勝負。情報があまりに多いと、ユニークさを際立たせるのが難しい気がする」

画像 ハイレベルな技術者も集まった

 東京での当初の目的――いい人材を集めること――も達成できたと感じていた。東京に来る前は「京都にいて大丈夫なのか。東京を知らなくていいのか」という焦りもあったが、その焦りからも解放された。潮時だった。

 京都行きを決めた自分が米国に残ったまま、社員だけを京都に引っ越させるわけにもいかない。米国から戻り、京都移転を主導しようと決断した。

 社員には戸惑いもあった。東京生まれ・東京育ちの社員、東京で家族と暮らす社員。みんなにとって、京都行きは大きな決断だった。京都移転を1つのきっかけに、辞めた社員もいた。だが大半は、ついてきてくれた。

倍の広さの京都オフィス、いっぱいにしたい

 シリコンバレーのオフィスは海外拠点として残すが、日本のスタッフは3人とも帰国。Hatena.Incは休眠状態になる。東京には営業・サポート部隊が残り、新たにオフィスを借りて移る予定だ。

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