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JASRAC独占、なぜ崩れないのか――JRCの荒川社長に聞く(3/3 ページ)

» 2008年05月12日 10時50分 公開
[岡田有花,ITmedia]
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「コピーフリー前提」には違和感

――DRMフリー配信も増えてきた。

 DRMを付けて配信する権利者がメインストリームだった時代は、DRMを客観的指標にして使用料を決めていくことには合理性があった。世の中のトレンドとしてDRMフリーが一般的になっていくなら、時代の要請とともに考え直さなくてはいけない。

 ただ、ビジネスとして音楽配信をやっていく際、アーティスト側の判断でプロモーションの手段としてDRMフリーで配信することもあるだろうが、一般的には権利者や配信事業者が「どんどんコピーされることがいい」と考えてビジネスを構築することは、あまりないと思う。

 世の中には悪意を持って――とまでは言わないが、「コピーできるならしちゃっていいじゃん」と、自由にコピーさせ、客が集まれば、その客に対して別の物を売ることでビジネスをしようという人がいる。それは、音楽をあまりに都合よく解釈しているつらいビジネスだと思う。

――ネット上の音楽の状況は、めまぐるしいスピードで変わる。どれぐらいのサイクルで契約形態の見直しなどを行っているのか。

 1年ごとぐらいだ。一度許諾を出したら安定性が必要で、ころころ変えればいいというものではない。契約を結んだ後、半年後に世の中が変わったからといって「また契約変えましょう」となると、利用者が混乱し、結果として信用を失うことにもなる。

 先回りできるのが理想的だ。例えばサブスクリプションモデルは先回りできた例だ。2005年夏ごろにNapsterが日本法人を作り、サブスクリプションサービスをスタートすると発表した。

 当時、すでに米国ではサブスクリプションモデルが始まっていて、そのモデルを研究し、「日本でやるならこんな条件ではないか」と関係者と話した。06年4月から当社の利用料規定にサブスクリプションモデルを入れ、9月からのNapster日本版に間に合った。

 当時は米国などで先に起きたものが日本に来るというのが多かったが、YouTubeのようなものは、世界同時に動き、先回りがなかなか難しい。1年ごとに見直すというのがぎりぎり最短のペース。頻度を高めすぎるのも良くない。

理想の音楽著作権管理とは

――音楽著作権管理の理想型は、どういうものだと考えているか。

 著作権のことを意識する必要なく、ある部分は保護保全され、ある部分はちゃんと利用してもらえる、という状態。権利について、考えなくていい状態が理想だろう。アーティストやその周辺にいる人たちが「JRCに任せておけば心配ない」という事業者になれれば一番いい。

 むやみやたらに権利制限の方向に行くのは良くないし、むやみに権利を自由に行使させてしまうのも良くない。バランスを真ん中で取っていき、アーティストに安心して任せてもらえるようになりたい。

 僕らには音楽を生み出す才能はないが、権利についてのそれなりの知識と考え方とシステムを持っている。それをアーティストの方にうまく使ってもらうことで、より良いクリエイティビティーを発揮してもらい、より良いものができたらそれをまた管理させてもらえれば。

 そういう状態で生まれてきたものは、音楽ファンの方にもきっと受け入れてもらえる。

ネットは可能性を自らの手で摘んでいないか

 音楽著作権については、今は「あんな利用形態が出てきた、どうしよう」と、みんなが右往左往している状態。それはもったいないというか、本質ではない。

 JRCを起業する以前、僕は坂本龍一のコンサートスタッフをしていた。95年に坂本“教授”が初めて大規模なネットライブをした際のスタッフだったが、その時「時代は変わるな」とすごく感じた。

 それまでは、遠隔地に音楽をライブで流すというのは、圧倒的な資本とネットワークを持っている人にしか許されない、テレビを使ったある種のぜいたくだった。だが教授のネットライブでは、ボランタリーベースで集まってPCを持ち寄り、「StreamWorks 1.0」という動画再生ソフトとサーバで配信した。すごくインパクトがあった。

 96年、「インターネットエキスポ」公式事業の一環で、教授が東京・渋谷のオーチャードホールでコンサートを開き、楽屋にもカメラを置いて生中継し、メーリングリストも作った。

 教授はサービス精神旺盛なので、メーリングリストに「今楽屋に来たよ」と投げつつ、カメラに向かってメッセージを見せたり、ステージ衣装に着替える時、わざわざカメラの前で脱いだりして。

 そういうのがネットの本質だと思った。その後、技術的に面白いものは出てきているが、それを超えるものはないのではないか。

 ネットはその可能性を、自らの手で摘んでしまっているような気がする。そうしてしまったのはビジネスレイヤーかもしれないし、コンシュマーレイヤーかもしれない。

 もっとみんなで単純にマナーを守り、普通のことをやっていれば、楽しいこともいっぱいあるはずなのに、なんでこんなにキツキツな感じでやらないといけないのかと残念だ。

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