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「JEITAはゼロ回答」「経産省とやり合うことに」――権利者団体、補償金問題で8回目の会見

» 2008年07月24日 19時36分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 「JEITAは権利者からの質問に正面から答える気がない」「JEITAの“ちゃぶ台返し”には経産省の介入があった」――権利者側の89団体が7月24日に開いた私的録音録画補償金に関する会見で、実演家著作隣接権センター(CPRA)の椎名和夫さんはこう述べ、JEITA(電子情報技術産業協会)や経済産業省を批判した。

 会見は「メーカーのかたくなな主張がもたらすもの」と題し、「CULTURE FIRST」(文化の重要性を訴え、私的録音録画補償金制度の堅持を求める権利者の運動)のイベントとして開催。補償金制度に関する会見は1カ月ぶりで、2007年7月の第1回から通算して8回目となる。

 会見には椎名さんと日本音楽著作権協会(JASRAC)常務理事の菅原瑞夫さん、日本映画製作者連盟の華頂尚隆さんが出席。CPRAの松武秀樹さんが司会した。

「JEITAは時間稼ぎをしようとしているだけだ」

画像 椎名さん

 「DRMがあれば補償金は不要」と主張を続けるJEITAに対し、補償金の堅持を求める権利者側は今年6月、2通目の公開質問状を送付。JEITAは7月10日の文化審議会私的録音録画小委員会(文化庁長官の諮問機関)で、質問状への回答も含んだ資料を提出したが、その内容について椎名さんは「答えになっていない答えばかりで、ゼロ回答だ」と憤る。

 例えばJEITAの資料には「DRM(著作権保護技術)付きコンテンツは、契約で複製を許諾・制限しているのと同じで補償は不要」とあるが、椎名さんは「そもそも契約で許諾する複製とは契約の対価を伴うはずだが、ダビング10など契約の対価を徴収できない分野もなぜ同一に扱われ、権利者に経済的不利益が発生しないとするのか、まったく説明されていない」と読む。

 「JEITAは時間稼ぎをしようとしているに過ぎない」とも主張する。「法改正にただ反対していれば、補償金制度は事実上自然死を迎える(課金対象機器が時代遅れになり、販売されなくなる)。JEITAはそこを狙って時間稼ぎしようとしているに過ぎない。彼らが考えているのは、補償金の負担サイクルからメーカーが逃れるということのみだ」(椎名さん)

 JASRACの菅原さんも「JEITAの発言、対応を見ていると、文化保護の制度はいらないと言っているに等しいと思う」と述べる。

 「新しい機器(iPodなど)を補償金の課金対象に指定しないと、録音補償金は間もなく消える。オリンピックを前にBlu-ray Disc(BD)とBD録画機器は課金対象になることが決まったが、まだ政令指定されておらず、オリンピックで売れた機器は補償の対象になっていない。補償金問題だけでなく、メーカーがコンテンツの複製機械を売って商売し、利益をあげているということについて、追及を考えていかねばならない」(菅原さん)

「補償金は実質的に、メーカーが支払っている」

画像 椎名さんは、松下電器産業のBlu-ray Discレコーダーのネット・店頭での販売価格から、補償金額(1台当たり759円)を推定した資料を提示した。「販売価格はメーカーと量販店の取引実績や力関係、マーケットで決まり、同じ商品でも店舗によって4万円もの価格差がある。4万円のうちの759円(推定補償金額)は、法外な金額と言えるだろうか」(椎名さん)

 とはいえ補償金は、法律上は消費者が支払うことになっている。JEITAに加盟するメーカーは、機器の価格に補償金を上乗せし、集めた補償金を集約して権利者団体に配分する「協力義務」を負っているに過ぎない。

 椎名さんは、家電製品の小売価格決定プロセスに関する公正取引委員会の資料を紹介しながら、補償金は小売価格に上乗せされていないのではと指摘。「支払い義務者は事実上メーカーで、メーカーもその認識を持っているからこそ強くこだわり続けているのだろう」との見方を示し、「今後はメーカーを支払い義務者にしたほうが現実に即していると主張していく」と話した。

経産省としばらくやり合うことになるだろう

 4月までの録音録画小委員会では、補償金堅持の方向で合意に向かったかに見えたが、5月以降の小委員会でJEITAが強く反発して議論が暗礁に乗り上げた。その後、文部科学省と経産省が、Blu-ray Disc(BD)とBD録画機に補償金を課すことで合意。事態は権利者の頭越しで進み、7月4日にダビング10がスタートした(Blu-rayに補償金の「なぜ」 「ダビング10」「iPod課金」はどうなる)。

 一連の動きには「経産省の介入があると考えられる」と椎名さんは言う。「小委員会のJEITA側の委員に今期から経産省からの天下りの方(長谷川英一氏)が座るなど、その兆候は見えていたが、Blu-rayへの補償金課金をめぐる経過で、それがあらわになった。経産省はコンテンツ産業も担当しているのに、これまで補償金の議論を調整することもしてこず、土壇場になってメーカーに荷担し、権利者を屈服させようとした。知財立国を標榜する中これはゆゆしき事態。経産省は当事者能力を失っている」

 椎名さんは、2006年に起きた「電気用品安全法」(PSE法)をめぐる問題で経産省と“対決”したことを振り返る。「PSEの時も経産省は大企業しか見ていなかった。強きに流れるバカな体質は変わっていない。経産省と、しばらくやり合うことになるだろう」

権利者は「プラス思考でいきます」

 権利者にとって目に見える成果も出てきたという。成果とは(1)JEITA加盟社にも、権利者に理解を示すメーカーが出てきた、(2)補償金制度が報道されるようになり、消費者の関心が集まってきたこと――で、椎名さんは「プラス思考でいきます」と話す。

 (2)についてはアイシェアが7月7日に発表した補償金についての意識調査(ネットアンケート)で、24.2%が「補償金は著作権のためなら仕方がない」と、25.9%が「課金される補償金の金額次第(で受け入れる可能性がある)」と答えていたことを紹介。「課金されてもいいと考える人が55%に上っている。ネットユーザーを中心とした調査結果では、これまでに考えられなかった画期的な数字。少しずつだがユーザーの理解が進んでいる」(椎名さん)

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