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「もらえるべき対価、損している作家も」――「ニコ動」発の商品化、広がりと課題

» 2008年11月14日 09時30分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 「ニコニコ動画」で人気のコンテンツが相次いでCDやDVD、キャラクターグッズになっている。作家本人が同人流通ルートで販売することあるが、メジャーなレコード会社や出版社、おもちゃメーカーなどから商品化されるケースも増えてきた。

画像 仁平部長

 ニコニコ動画運営元のドワンゴグループも、さまざまなコンテンツの商品化に関わってきた。「陰陽師」のCDや「ねこ鍋」のDVD、「『みくみくにしてあげる♪』【してやんよ】」など初音ミク楽曲の着うたやCD、「思い出はおっくせんまん」のカラオケなど、ヒット商品も多い。

 独特の課題もある。ニコ動に投稿している作家の多くがアマチュアの個人。商品化に伴う著作権関連の契約に戸惑うこともあれば、作品を盛り上げてきたファンが商品化に反発することもある。「もらえるべき対価を損している同人作家も多い」と、ドワンゴ アライアンス推進本部営業部・契約管理部の仁平淳宏部長は話す。

「陰陽師」は1万枚販売

画像 レッツゴー!陰陽師のCDジャケット

 「これ、CD化すればいけるんじゃない?」――最初の商品は、そんな思いつきで生まれたという。

 プレイステーション 2用ゲーム「新・豪血寺一族 −煩悩解放−」のBGM「レッツゴー!陰陽師」が、ニコニコ動画で大流行した07年初めごろ。開発元のノイズファクトリーと話し合い、着うたCDを発売。CDは約1万枚売れたという。

 「とりあえずやってみよう、と制作コストを抑えて作ったので、1000〜2000枚売れれば回収できるレベルだった」というから、かなりの利益が出たようだ。

 次のヒットは「ねこ鍋」だ。投稿主のエレファントさんと相談し、ねこ鍋関連のグッズの商品化窓口を同社が務めた。ドワンゴグループからDVDを出したほか、他社とライセンス契約を結び、写真集や、ねこ鍋のぬいぐるみ型の携帯電話用クリーナーといった商品を展開。写真集は6万冊以上売れるヒットとなった。


画像 ねこ鍋の携帯クリーナー
画像 ねこ鍋の絵本

「みくみく」商品化と“みくみく騒動”

 「初音ミク」で作られた楽曲もビジネスになった。「みくみくにしてあげる【してやんよ】」(作詞作曲:ikaさん)など人気の楽曲は着うたで配信。「陰陽師」「みくみく」など人気曲をまとめて収録した「CDで聞いてみて。〜ニコニコ動画せれくちょん〜」は4万枚を出荷した。

 アマチュアの個人が趣味で作ったコンテンツがニコニコ動画でファンを獲得し、商品になって利益を生み出すという新しいビジネスが、特に初音ミク作品を中心に確立してきた。だがそれは、著作権関連の複雑な契約など、これまで作家が所属する事務所などが担ってきた役割を、個人作家本人に担わせるものでもある。作品を盛り上げてきたファンが商品化に反発し、その声が作家を傷つけることもある。

 昨年末、「みくみくにしてあげる」の着うた化をめぐり、そんな課題が一気に噴出した。楽曲制作者とドワンゴ側の契約や、JASRAC(日本音楽著作権協会)との契約について、ネット上で情報が混乱。作者のikaさんが「金もうけに走った」と批判される事態にもなった。

楽曲を作った人が悪者にならないようにしたい

 「ikaさんはビジネスに前向きで、権利を預けてもらっていたのだが……。ニコ動ユーザーの中にはお金をもらうことを『悪いこと』ととらえる向きもあるが、楽曲を作った人が悪者にならないようにしたい」

 ニコニコ動画から商品化したい作品を見つけると、同社スタッフがまず作者に連絡する。その際は、コンテンツを商品化するかどうかについて作者の意志を尊重し、権利の扱いについても、どんな選択肢があるかを作者に説明するよう注意しているという。

 「コンテンツからの対価は、より良いアーティスト活動の基盤になる。自分の意志で『対価をもらわない』と決めたのならいいのだが、対価を得る方法を知らなかったために得られなかったというならもったいない。必要な情報を提供して、あとは作家さんに判断してもらう」

 例えば初音ミク楽曲の作家の場合は、まず本人に連絡して商品化の意志を確認する。同人作家が「ファンからお金を取りたくない」と断ったり、プロの作家が「匿名で、趣味で楽曲を作っているから」と断るケースも少なくないという。

 商品化OKの場合は、権利をどうするかについて選択肢を提示する。著作権の一部を同社グループの音楽出版社で預かり、作者の意志を確認した上でJASRAC(日本音楽著作権協会)のような著作権管理団体に信託する。JASRAC以外の管理団体や、権利を預けないという選択肢も紹介し、それぞれのメリット・デメリットを提示するという。

もらえるべき対価を損している同人作家は多い

 「もらえるべき対価を損している同人作家さんは多い」と仁平さんは指摘する。特にカラオケ配信の場合、JASRACに信託すればかなりの額の利用料が得られるにもかかわらず、「金もうけに走りたくない」と信託をせず、結果として対価をほとんど得られなかったり、無料で配信している同人作家は多いという。

 カラオケ配信には著作権のうち(1)複製権、(2)公衆送信権、(3)演奏権といった権利がからむ。楽曲の作家は、(1)と(2)の使用料をカラオケ事業者から、(3)の使用料を個々のカラオケボックスから徴集することになるが、JASRACに信託していない場合は、個人で個々の店舗に使用料をもらいに回ることはまず不可能で、(3)の使用料を得ることができない。

 (1)と(2)の使用料は配信事業者と交渉すれば得られるはずだが「それを知らずに損をしている同人作家さんが多い」。ドワンゴグループの音楽出版社などに権利を預ければ、そういった交渉も代行できるという。

 権利を預けないメリットも、もちろんある。そもそも対価を受け取りたくない場合や、ネット上で自由に利用してもらいたい場合、イベントで自由に演奏したい/してほしい場合などだ。権利を預けていなければ、管理団体に規定の使用料を支払う必要がなくなり、利用してもらいやすくなる。

ニコニコは新人発掘フィールド

画像 ニコニコてれびちゃんは携帯ストラップなどのグッズにする予定

 「ニコニコ動画は新人発掘フィールドだ」――今後も、人気作品の商品化を進めていきたいという。今、特に注目しているのは「がくっぽいど」を使った楽曲。ユーザーが作ったコンテンツだけでなく、「ニコニコてれびちゃん」など人気の公式キャラクターの商品化の話も進んでいる。

 ただ、商品化はそれ自体が目的ではなく、ニコニコ動画を盛り上げるための手段の1つという。「プロになりたい人をサポートする道の1つとして、商品化という道を示し、よりクリエイティブな人に集まってもらってニコニコ動画を面白くしたい」

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