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第2章-1 マジンガーZが熱い魂を宿すには人とロボットの秘密(2/2 ページ)

» 2009年05月20日 15時11分 公開
[堀田純司,ITmedia]
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 永井氏はその著書『デビルマンは誰なのか』で、完全な人工知能が開発され、完全な人型機械が開発されたとしても、それだけではアトムは実現しないだろうと指摘している。

 人間は非常にもろくてよわい体を持っていて、怪我や死を恐れながら生きている。しかしそれゆえに人間らしい心を持つのであって、もし金属でできた頑丈な体を持ち、10万馬力のパワーを持った存在が意識を持ったとしたら、それは人間の心とはかけはなれた意識になるはずだ。肉体はいれもの、魂こそが人間の本質という考え方があるが、脆弱な肉体だからこそ、魂は謙虚さや優しさを持つのだと永井氏は語る。永井氏は心と体を二つの異なる実体とは考えていなかった。

 現在のロボット工学者も同意する永井氏のこの人間観が、『マジンガーZ』の設定に反映されているのがおわかりだろう。主人公、兜甲児(かぶとこうじ)は機械に乗り込み、自らの命を危険にさらして敵と戦う(実際、作中ではマジンガーがダメージを受けるのにともなって、甲児も傷を負う様子が描写された)。

 またその操縦席は、強力な超合金Zで装甲されておらず、ほとんど頭部でむきだしである。

 もし兜甲児が分厚い装甲に覆われたロボットの最深部、あるいは遠隔地からモニターでコントロールするのであれば、現代のハイテク戦争のように彼の戦いはもっとクールなものだったことだろう。しかし人がその身をさらして乗り込むことで、マジンガーは熱い心を持った。

 涙を流すことを知らない機械が熱く燃える正義の心を宿すためには、搭乗者がその身をさらして戦うことが必要だったのである。

 ちなみに、マジンガーのような“搭乗型”に関して、自律型こそが真のロボットではないかという意見もあるところである。

 だが、立花隆氏が筑波大学の山海嘉之(さんかいよしゆき)教授との対談で教授のロボットスーツの研究について、人工知能実現の困難に言及し“「人間の脳をロボットの脳として使う」という発想の大転換によって、この難題をクリアしてしまった”(「月刊現代」2005年5月号)と指摘しているのだが、これは搭乗型のロボットについても同じことが言える。搭乗型のロボットは、視点を変えてロボット側から見れば「いちばん実現困難な知能の部分に有機システムを使用した」ロボットと見なすことができるのだ。

→次回「第2章-2 ロボットは考えているのか、いないのか」へ

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堀田純司

 ノンフィクションライター、編集者。1969年、大阪府大阪市生まれ。大阪桃山学院高校を中退後、上智大学文学部ドイツ文学科入学。在学中よりフリーとして働き始める。

 著書に日本のオタク文化に取材し、その深い掘り下げで注目を集めた「萌え萌えジャパン」(講談社)などがある。近刊は「自分でやってみた男」(同)。自分の好きな作品を自ら“やってみる”というネタ風の本書で“体験型”エンターテインメント紹介という独特の領域に踏み込む。


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