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前章で、コンピューターの中に知能を宿らせようとした初期の人工知能の研究からは、人間の知能は知能だけで実現することができるという人間観が感じられると述べた。しかし身体と心は不可分であることに気がつき、人工知能研究は、体を持った知能ロボットの開発へとシフトしていくことになる。
いわばデカルト的な心身二元論から、心も体も同じ実体の異なる表現であるという「心身並行説」への転換を果たしたわけである。
人間はこの身体を持つからこそ、人間らしい心を持つのだ。こうした人間観について、日本の創作者、永井豪氏は「完全な人工知能が開発され、完全な人型機械が開発されたとしても、それだけではアトムは実現しないだろう」と指摘している。
永井豪氏は、日本のロボットの歴史を変えた、文字どおり巨大な作品、『マジンガーZ』の作者である。
もともとロボットはSF分野では主要な設定のひとつだった。しかし日本では、このロボットが独自の進化を遂げ、「巨大ロボットもの」という独特のジャンルを育てあげている。
「巨大ロボットもの」とは、その名のとおり巨大なロボットが登場するジャンルで、そのロボットは巨大さにふさわしい強大なパワーを持ち、大切な特徴として唯一無二の存在である。そして主人公の少年は、専属操縦者としてその巨大なロボットに乗り込んで戦うことになる。
この分野の草分けとなった作品が、永井豪氏原作の『マジンガーZ』(72年)だった。永井豪氏は、もともと、「ロボットを呼吸していた」と言うほどロボットのファンで、子どものころは手塚治虫氏の漫画『鉄腕アトム』や、横山光輝氏の『鉄人28号』を、毎月なめるように読んでいた。そして「漫画家になったら、絶対にロボットマンガを描こう!」と決めていたという。
そうした永井氏が執筆した『マジンガーZ』は、鉄(くろがね)の城とうたわれる巨大なロボット。全高は18メートル。胸囲は13.6メートル。体重は20トンだった。巨大といっても、実はこの作品の後に続々登場する「後輩巨大ロボ」と比べると、元祖はやや小さめである(たとえば1977年放映の『惑星ロボ ダンガードA』に登場するダンガードAは全高200メートル、体重は500トン。もっともこれは極端に大きい例なのだが)。
ボディは新元素ジャパニウムから精製された無敵の硬度を誇る超合金Z。動力は無限の力を持つ光子力だ。そして両腕を飛ばすロケットパンチ、超合金Zでさえも腐食させるルストハリケーン、高熱を発射するブレストファイヤー、TNT火薬10トン分の破壊力を持つ光子力ビーム、体内で製造される腹部のミサイルなど、スーパーロボットの名にふさわしい多彩な装備を持ち、数々の敵と対決した。
しかし、マジンガーZは超破壊兵器として開発されたのではない。ミケーネ帝国の超科学を手に入れて世界征服をたくらむドクターヘルの野望に立ちふさがるため建造された、人類最後の希望として生まれたのである。
この『マジンガーZ』の登場は、それまでのロボット像をがらっと変えてしまった。たとえば「Z」が基調とした黒は、従来は敵方の色で、売れない色とされていた。またデザインも、ダーティな印象を与えてもおかしくないほどの迫力があった。これは永井氏の同時期の作品『デビルマン』(72年)に通じる造形である。
しかし『マジンガーZ』がもたらした最大の革新は、主人公が機械のボディに乗り込み、一体化して戦うという傑作設定をつくったことだった。先行するロボットものの名作、手塚治虫氏の『鉄腕アトム』(63年)が人工知能を搭載した自律型、横山光輝氏の『鉄人28号』(63年)、『ジャイアントロボ』(67年)が遠隔操作型だったのに対して、『マジンガーZ』は、操縦者が自ら乗り込む搭乗型なのである。
このアイディアは、ただ先行作品と似てしまうのを避けるため、という理由だけで生み出されたものではなかったようだ。
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