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よしもとばななさんの新刊、電子書籍でも発売 毎日新聞社から

» 2010年09月13日 20時13分 公開
[ITmedia]
photo よしもとさんと長谷川事業本部長

 毎日新聞社は、よしもとばななさんの小説「もしもし下北沢」の電子書籍版(iPad/iPhone向け)を10月1日から配信する。書籍に比べ安価に設定した上、新聞連載時のカラー挿絵を収録し、書籍にはないコンテンツの追加配信も行うなど、電子書籍ならではの内容。よしもとさんは「本を手に入れる選択肢が増える。これまでの読者とは違う層に読んでもらえれば」と期待している。

 「もしもし下北沢」は、毎日新聞の土曜朝刊で昨年10月から今月11日まで週1回・49回連載した長編小説。父が知らない女性と心中してしまった主人公の女性と喪失感、転がり込んできた母との共同生活と対話。変わりゆく東京・下北沢に抱かれ、主人公は少しづつ立ち直っていく──。書籍版は9月24日発売、四六判272ページ、1575円。

 電子書籍版はAppleの審査などもあり、書籍版から1週間遅れで配信。発売1週間は900円、その後は1200円と、、書籍版より安価に設定した。

 電子書籍版には、イラストレーターの大野舞さんによるカラー挿絵49枚と、よしもとさんによる「連載にあたって」「連載を終えて」という連載の始めと終わりに書かれた文章も収録。さらに、10月半ばに行う下北沢出身の雀士・桜井章一さんとよしもとさんの対談全文を購入者に無料で追加配信する。

 毎日新聞社の長谷川篤コンテンツ事業本部長は「イラストがとても素敵なのでなんとか本に生かせないかと考えたが、単行本にカラー口絵49枚はとても高価になってしまう」と、同社の単行本としては初の電子書籍化にチャレンジしたきっかけを話す。

 同社はiPad向けデジタル雑誌「photoJ.」を発行するほか、ソフトバンク系で新聞・雑誌を電子配信するビューンに出資している。長谷川事業本部長は「毎日新聞社として電子書籍に舵を切るという基本的スタンスが決まったわけではないが、紙が取り逃していた層にiPad/iPhoneで楽しんでもらい、相乗効果でパイそのものを大きくしていければ」と期待する。

 よしもとさんが電子書籍化を聞いたのは2週間前で、実際のアプリも未見だというが、「イラストが全部入ったり、サイトと連動するといったところに引きつけられる」という。「電子書籍は戦国時代のような状況で、出版社などが落ち着いてから考えようと思っていたところに、最後にやるほうだと思ってた新聞社から一番に話をもらった。それでもさすがにiPad/iPhoneじゃないだろうと思ってたら、そうだというので、うれしくなってやろうと思った」と話す。

 よしもとさん自身は「長くインターネットに親しんできたので、長いテキストを読むことに抵抗はない。選択肢が増えたとしか思っていない」という。「町の書店、大型書店、Amazonと、今はその本にあった手に入れ方が増えている」ことの1つが電子書籍だが、「素直に新しいものは見たい」という期待感もある。ただ、「紙がなくなっていいとは思っていないのが本音で、例え電子書籍で買っても、本当に欲しいものは紙の本で買うだろうなと思っています」とも。

 電子書籍版は、これまでのよしもとさんの読者層とは違う人に読まれることを期待。「昔が良かったとか未来がいいとかではなく、iPad買っちゃったので電子書籍を読んでみよう、という人に読んでほしい」。その上で「App Storeには新しいアプリが次々と登場し、どんどん埋もれていく可能性が大きい。そのための広告がどうなるのかなど、とにかくそれを見てみたい。電子書籍の行方に興味がある」と話していた。

下北沢の物語

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 新しい「街づくり」計画をめぐり、賛成と反対で揺れ動く下北沢。久しぶりの新聞連載小説の執筆に当たり、よしもとさんは「下北沢に近いところに引っ越して、街が変わっていく様子を見ることができた」と下北沢を題材に選んだ。

 「わたしは昭和を味わってきた世代。アジアの大きな都市に行くと、『この店、売り上げは?』『この店あっていいのかな』という店がいっぱいある。東京から急速に消えたのはそういう店。下北沢にはまだ存在していて、いてもいなくてもいい人が存在を許されているのが下北沢。再開発の反対運動に参加しようかとも考えたが、、性に合わないので、自分にできることを考え、こういう形にした」。

 新聞連載では「かなり気をつかった」という。「普段は一人称の視点でどんどん主観的になるように書くが、新聞ではたくさんの世代が読むと思ったので、主人公と母のように、世代間の話を増やした」。

 電子書籍に収録される印象的な挿絵を描いた大野さんは、下北沢に引っ越して連載に取り組んだ。挿絵にも下北沢の実際の風景が描かれているという。「毎日新聞の人は今時いないタイプの個性的なおじさんたち。1冊の本の中に、自分だけの力じゃないものが入っている。手をかけたので本になったのはうれしい」。

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