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「歌舞伎すげえ」がネットの向こうに届いた手応え 「超歌舞伎」舞台の上から役者が見た景色(1/5 ページ)

» 2016年05月28日 11時00分 公開
[山崎春奈ITmedia]

 「歌舞伎全然分からないけど泣いてしまった」「テクノロジーと伝統芸能の素晴らしい融合」「会場もコメントも盛り上がりがすごくて鳥肌」――古典歌舞伎「義経千本桜」と初音ミクの代表曲の1つ「千本桜」を融合した新作歌舞伎「今昔饗宴千本桜」(はなくらべせんぼんざくら)が「ニコニコ超会議」(4月29〜30日、千葉・幕張メッセ)で上演された。主演に中村獅童さんと初音ミクさんを迎え、俳優の演技と映像表現が絡み合う「超歌舞伎」は、リアルタイムにネット配信され、歌舞伎ファン以外からも大きな注目を集めた。

photo 超歌舞伎「今昔饗宴千本桜」

 2日間で全5回の公演を行い、回を追うたびに口コミで人気が広がった。千秋楽はイベントホールの入場を規制するほどの超満員となり、約5000人の観客を集めた。ネット配信の視聴数は累計15万回にのぼっている。

 佐藤忠信と白虎を演じる中村獅童さん、美玖姫役の初音ミクさんに並び、敵役として美玖姫に挑みかかる邪悪な精・青龍役を務めたのが澤村國矢さんだ。悪役を特徴付ける青い隈取の迫力ある見た目、存在感のある演技で舞台を盛り上げた。

photo 美玖姫に挑む敵役・青龍

 テクノロジーとの融合をテーマに、映像表現やボーカロイド・初音ミクの声を多用した「超歌舞伎」。普段の演目とは全く異なる準備が必要となる演目を、歌舞伎と心理的距離が遠いであろう若年層ネットユーザーの多い「超会議」で演じる――そのステージからはどんな光景が見えたのだろうか。

――まずは、出演までの経緯を教えていただいてよいでしょうか。

photo 澤村國矢さん

澤村國矢さん 普段のお仕事と同じように、松竹の方から3月半ばに電話をいただいたのが最初です。4月公演に関することかと、いつもと同じように電話に出たのですが、なんだか電話口で様子がおかしくて。「あのー、『ニコニコ超会議』ってご存じですか?」と……。

 電話をいただいたのが朝早めの時間で、実は僕その時、寝起きだったんですよね。最初何の話をしているのかよく理解できなくて、「主演は中村獅童さんと初音ミクさんと……」という言葉を「はぁ」「分かりました」と頭にハテナマークを浮かべて聞いていました。

 初音ミクさんご自身はもちろん存じ上げていたのですが、「超会議」というイベントは初めて聞いたのですぐにネットで調べました。最初の印象は……「こんなところで、歌舞伎やるの?」。若い人が多いネットカルチャーのお祭りということで、ずいぶん縁遠い場所だなぁ、というのが正直な感想でした。

 その後すぐに打ち合わせに行ったのですが、「義経千本桜」とボーカロイドの曲や小説「千本桜」をベースにした新作歌舞伎です、國矢さんはオリジナルの敵役・青龍です、と説明されてもまだ疑問ばかりでした。ステージの模型で「ここにミクさんが映ります」と言われても全然ピンと来ませんでした(笑)。

 その初回の打ち合わせで「映像を先に作らなくてはならないので、大体の尺を知るためにせりふ読んでもらってもいいですか?」と言われて。普段は絶対こんなことはないですね。松竹の会議室で、ほとんど初見の台本を「こ、こんな感じでいいのかな?」と探り探り、読み上げました。

photo 歌舞伎初心者に向け、特設ページで相関図やあらすじ、見どころを詳しく紹介している

――その段階で本番の1カ月前なんですね。もっと早くから準備したものなのかと思っていました。

 もちろん、制作作業はもう少し前から始まっていますけどね。稽古の初日は4月23日でした。直前まで別の公演に出ていた演者もいたので、結局、出演者全員がそろったのは27日です。

――えっ、本番は29〜30日でしたよね? 1週間切っている……?

 歌舞伎の世界を知らない人によく驚かれることの1つですが、1カ月続く公演でも稽古は4日間程度が普通なんです。なので、普段と比べて短いわけではないんですが、「超歌舞伎」は普段と全然違いましたからね……かなりギリギリでした。

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