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前代未聞! 「ボカロPV付き」参考書13万部の大ヒット 中学生の心つかんだ学研の戦略(2/5 ページ)

» 2016年06月27日 07時52分 公開
[岡田有花ITmedia]

「ボカロが中学生に降りてきた」

 企画を始めた2014年秋ごろの中学生像は……小学生のころ「AKB48」がブームになり、YouTubeで公式プロモーションビデオ(PV)を見ることが一般化した「PV世代」だと八巻さんは考えた。

 歌声合成ソフト「VOCALOID」を使って作った楽曲「ボカロ曲」を基にした小説「ボカロ小説」も中高生を中心にヒット。ボカロ小説がきっかけでボカロ曲のPVを見る子も増え、卒業式や合唱コンクールでボカロ曲を歌う学校が珍しくなくなった。「上の世代のものだったボカロが、中学生に降りてきていた」。

 ボカロ曲のPVの多くに歌詞テロップが入っている点も、参考書と相性が良さそうだった。「歴史用語を歌詞にしてPVに入れれば、耳からも目からも覚えられる」。ボカロ曲は「歌い手」のファンも多く、カラオケランキングでも常に上位。「歌って覚える」参考書にできそうだと考えた。

画像 「千本桜」のPVより。歌詞がテロップで表現されている

 当初は社会科のみで企画していたが、「2色の表紙から選べる2冊セットで出せると面白いのでは」と、社会と理科をセットで出すことにした。

「千本桜」作者など著名Pが参加、作詞も手がける

 ターゲットは、ボカロ曲を聴きながらファッション誌も読むような一般的な中学生だ。中学生に人気のボカロ曲をカラオケランキングなどから調べ、曲の作者(P)たちに協力を打診した。

 紅白歌合戦で小林幸子さんが歌った「千本桜」の「黒うさP」や、実写映画にもなった「脳漿炸裂ガール」の「れるりりP」など、有名Pたちに企画を持ち込んだところ、2つ返事で協力を申し出てくれたという。「みなさん、教育に興味があると言ってくださって」。

画像 脳漿炸裂ガールのPVより

 参考書に収録したのは、理科・社会とも各10曲。「千本桜」「脳漿炸裂ガール」など4曲は、歌詞を学習用に変えた“替え歌”で、そのほかの16曲はゼロから作った。曲だけでなく詞もすべて、Pが手がけている。

 詞に入れてほしい用語や参考書をPに渡し、「この範囲を、あの曲風の恋愛ソングにしてください」などとオーダー。「中毒性のある感じで」「切ない感じ」など曲調を含めて依頼し、何度もやりとりしながら完成させていったという。

 通常の参考書は、専門分野に詳しいライターや編集プロダクションに、範囲や難易度を指定して依頼する。「『切ない感じで』などとオーダーすることも、あまりないですね(笑)」。

 詞の内容に間違いがないようにしつつ、歌詞が聞き取りやすく、クオリティの高い曲になるよう、Pと編集部で何度もやりとりした。例えばこんな風に。

画像 編集部からの指示で真っ赤になった歌詞

 「詞のこのあたりに『三内丸山遺跡』を入れたいです」「『墾田永年私財法』の『し』が『ち』に聞こえるので、もう少し『し』に聞こえるようにお願いできますか?」「間奏冒頭の『レ・シシ・ド・レのところの音も、できれば和風の音にしていただけますでしょうか?」

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