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漫画「鉄腕アトム」から生まれたロボット「ATOM」に秘められた、もうひとつの話

» 2017年02月23日 12時29分 公開
[太田智美ITmedia]

 「われわれはおもちゃやスピーカーを作っているわけではない。ヒトを作ろうとしてる」

 2月22日、漫画「鉄腕アトム」のキャラクターロボット「ATOM」が発表された。ATOMは、発話する二足歩行ロボット。部品を自分で組み立てるパートワークで、毎号「週刊 鉄腕アトムを作ろう!」(4月4日創刊)を購入すると2018年9月に全てのパーツがそろい完成する。全70号、価格は総額18万4474円(税別)。企画から3年を経て『鉄腕アトム』の世界観をベースにしたロボットプロジェクト「ATOMプロジェクト」を発足し、その第1弾として講談社、手塚プロダクション、NTTドコモ、富士ソフト、VAIOの5社が共同で開発した。


鉄腕アトムロボット「ATOM」


 各社の役割は、全体プロデュース・発行・販売・シナリオ編集を講談社が、モデリング・キャラクター監修を手塚プロダクションが、自然対話プラットフォーム(クラウド)の提供・対話シナリオの設計技術支援・共同開発をNTTドコモが、本体の設計開発(ロボティクス設計開発)・OS・アプリケーション設計開発を富士ソフトが、基板実装・組み立て代行サービスをVAIOが担当した。

 ATOMは人と会話をしたり人の顔を覚えたり(12人まで)、歌ったり、胸の液晶ディスプレイに動画や静止画を表示したりできる。身長は実際のアトムの3分の1サイズで、44センチほど。体重は約1400グラムで、可動は18軸(頭部2軸、腕部6軸、脚部10軸)。CPUボードには専用のカスタムボードとRaspberry Pi 3(model B)を使用しており、カメラ(92万画素)、マイク、スピーカー、LED(7色、2個)、タッチセンサー、6軸センサー、タッチパネル付き液晶ディスプレイ(2.4インチ)を搭載している。


鉄腕アトムロボット「ATOM」 ATOM外装

鉄腕アトムロボット「ATOM」 「プロに任せたい」という人のために、限定1000台で組み立て代行サービスもある(本体込み、税別21万2900円)

鉄腕アトムロボット「ATOM」 ATOMに使われている基盤やモーターなど

 このデザインを見て、気付く人は気付くだろう。実はこのロボット、これまでにない全く新しいロボットかというと、そうではない。7年前から富士ソフトが開発・販売するロボット「PALRO」(パルロ)にそっくりなのだ。


鉄腕アトムロボット「ATOM」鉄腕アトムロボット「ATOM」 (C)TEZUKA PRO/KODDANSHA コミュニケーション・ロボット「ATOM」 NTTドコモ「自然対話プラットフォーム」提供 Product by FUJISOFT

鉄腕アトムロボット「ATOM」 (C)TEZUKA PRO/KODDANSHA コミュニケーション・ロボット「ATOM」 NTTドコモ「自然対話プラットフォーム」提供 Product by FUJISOF

 大きな足に、サーボモーターの位置、後ろに取り付けられたバンパー(持ち手)、顔の振りなど、基本的な構造に見覚えがある。なんといっても、あの独特な待機姿勢(安定姿勢)の重心のとり方はPALROそのものだ。

 見た目だけではない。頭をなでると「エヘヘッ」というところや、しゃべり方、間の取り方なども、かなりPALROに似ている。

 「私たちは10年以上ロボティクスに取り組んできた。PALROはすでに700を超える施設に導入されており、そこで培った技術などを惜しみなくこのプロジェクトに注ぎ込んでいる。会話や構造などが似ていると感じるのは、根幹が同じだから。これまで得た知見を元に、声や口調、表現をアトムの世界観にカスタマイズしている」(富士ソフト担当者)


鉄腕アトムロボット「ATOM」 PALROの正面(公式サイトより)

鉄腕アトムロボット「ATOM」 ATOMの正面(公式サイトより)

鉄腕アトムロボット「ATOM」 PALROの横・後ろ姿(公式サイトより)

鉄腕アトムロボット「ATOM」 ATOMの横・後ろ姿

 一方で、多くの人に手に取ってもらえるよう工夫をした部分もあるという。「例えば、ATOMには足の裏に圧力センサーがない。そのため、圧力センサーがあるPALROは持ち上げるとすぐに『落とさないでね』と言うが、ATOMの場合はジャイロセンサーで検知するためすぐに反応しない。そういった違いを取り入れてコストを抑えつつも、本質的に重要なことを見定め、抜本的な変化がないようにしている」(担当者)。


鉄腕アトムロボット「ATOM」 ATOMの構造(サーボモーター)

鉄腕アトムロボット「ATOM」 (C)TEZUKA PRO/KODDANSHA 創刊号特別付録 「ATOM」原寸大&透視設計図より

鉄腕アトムロボット「ATOM」 (C)TEZUKA PRO/KODDANSHA 創刊号特別付録 「ATOM」原寸大&透視設計図より

 ハードウェアの設計という観点で興味深かったのは、「キャラクターとロボティクスの両立の難しさ」の話だ。

 アトムの決めポーズといえば、腕を高く上げるのが有名だ。漫画では、アトムの腕は下から上まで180度以上回転するようになっている。しかし、これをロボットでやろうとすると、腕の中に組み込んだケーブルが切れてしまう。それを防ぐべく、ゼンマイのような構造にし、腕が180度上がるようにしているという。

 また、アトムの立ち姿といえばAライン(足を広げたスタイル)が基本。これはロボットにとってはあまり安定した態勢ではない。制御によりAラインで動くように調整しているそうだ。


「鉄腕アトム」アニメ映像_80年版 (C)TEZUKA PRO/KODDANSHA

「鉄腕アトム」アニメ映像_63年版 (C)TEZUKA PRO/KODDANSHA

 ロボットの構造自体はPALROと似ているが、ATOMで使われる部品はほぼオリジナルのカスタム品。「機構の工夫も、組み立てるときに感じてもらえたら」と担当者は話す。ちなみに、ATOMの開発環境などの公開は、検討の余地はあるものの、現段階では予定されていないという。


「ATOMプロジェクト」映像 (C)TEZUKA PRO/KODDANSHA

 もう1つ、ATOMには特徴がある。できる限り端末側で処理を行う作りになっているということだ。「どうしても処理しきれない部分だけ、クラウドで行っている。例えば、ゲームや簡単な会話はロボット内で処理できる。処理が難しいのは、『道徳についてどう思う?』とか『あのスケジュールの次のスケジュールはなんだっけ?』とか。医学的にいえば、前頭葉レベルと大脳の一部の部分、ここは端末で処理する。かなりの記憶と経験値を結び付けていくような部分はクラウドを使う」――担当者はその理由を次のように語る。

 「人はこれまで、人以外と会話をしたことがなかった。人が人以外としゃべるのは、実はコンピュータが初めてなのだ。例えば、人間はリアルタイムに動く人を見て話すのが当たり前。だけどロボットが相手だと、その当たり前のことが難しい。2秒間映像がずれただけで、人はそっぽを向いてしまう。人は2秒あったら4メートル歩ける生き物だ。だから、端末側で処理しないと会話のテンポが崩れてコミュニケーションが取れなくなってしまう。これまで、介護施設などにロボットを導入したデータから、コミュニケーションには“没入継続時間”が重要だということが分かっている。その“没入継続時間”が途切れてしまったとき、『あ、コイツ、機械だった。おれ、機械に向かって何ゆってんだろ?』と思ってしまう。われわれはスピーカーをつくってるわけではない。人を作ろうとしているから、出来る限りの処理をロボットに入れ込んでいく。それがロボットとのコミュニケーションに欠かせない“親密感”につながるのではないか」(担当者)

太田智美


手塚治虫さんの肉声が入った映像 (C)TEZUKA PRO/KODDANSHA 

「ATOMプロジェクト」コンセプトムービー (C)TEZUKA PRO/KODDANSHA

発表会で披露されたラップをするATOM

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