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「もうからないのが一番の問題だ」 IIJが語る“農業IoT”の課題

» 2017年12月05日 15時55分 公開
[村田朱梨ITmedia]

 「農業のIT化にはいろいろな課題があるが、一番は単純に“もうからない”ということ」――インターネットイニシアティブ(IIJ)ネットワーク本部の齋藤透IoT(Internet of Things)基盤開発部長は、12月5日の事業説明会でこう話した。同社は農家の負担を軽減すべく、現在水田の水管理コストを削減するセンサーなどの開発に取り組んでいるという。インターネット接続サービスやMVNO事業を展開する同社がなぜ、“農業IoT”に取り組んでいるのか。

photo 開発システムの全体像

photo IIJクラウド本部の岡田課長

 IIJクラウド本部の岡田晋介ビッグデータ技術課長は、「IoTの技術的な課題はもう見えてきた。問題になるのは、具体的な利活用シーン」とし、「顧客の課題に答えを出していくため、自分たちでもIoT――例えば、文字通り“泥にまみれて”農業をやってみることにした」と話す。

 現在同社が取り組んでいる水田センサーの開発は、農林水産省の公募事業「革新的技術 開発・緊急展開事業」の経営体強化プロジェクトに応募したもので、目標は2019年度までに水田の水管理コストを半分に削減することだ。それを実現するには、水位や水温を測定する水田センサーや、バルブを自動で制御する自動給水弁の低コスト開発、2キロ以上の通信が可能な無線基地局の設置が必要だという。

photo 農林水産省の公募要領(抜粋)

 17年6月には同省や静岡県交通基盤部農地局、農業・食品産業技術総合研究機構などと「水田水管理ICT活用コンソーシアム」を設立し、静岡県の大規模経営体で実証実験を行っているという。

 この取り組みの担当者である齋藤部長は、「稲作の作業は、ざっくりと田植え・稲刈り、水管理、雑草除去、農薬散布の4つ。それぞれ徐々にIT化が進んでいるが、中でも一番導入しやすく効果が高いのが水の管理だ」と話す。

photo 稲作作業とIoT化の可能性

 稲作では、必要な時期にそれぞれの水田の状態に合わせて水を入れたり抜いたりする必要があるため、農家の負担も大きい。大規模農家になると、早朝と深夜に毎日数百枚にもわたる水田の様子を確認することもあるという。しかし、齋藤部長によると「田んぼ1枚で取れる米を売っても10万円程度」。既存のセンサーは高額なため、導入しても採算が合わないとしている。

photo IoT基盤開発部の齋藤部長

 低コストなセンサーや給水弁の開発はこうした農家の負担を減らすほか、実験地域である天竜川下流は必ずしも水が豊富ではないため、需要と供給に合わせて能率的に水を利用できるようにする狙いもあるという。18年度には実際に圃場(ほじょう)へ試作機を設置して実証実験を行い、その結果を基に改良を進め、19年度中にも量産化を目指すとした。

 「IIJとしては(この取り組みの)オープン化を進めていきたい」と齋藤部長は言う。「われわれがセンサーを開発して終わりにするのではなく、協力してくれるメーカーなどを巻き込んでエコシステムを作り、農業IoTの全国展開を狙っていく」

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