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知らないと損をする? コインチェック「賠償責任を一切負わない」利用規約は有効か 弁護士が解説「STORIA法律事務所」ブログ(2/2 ページ)

» 2018年02月16日 08時00分 公開
[杉浦健二ITmedia]
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 強行法規である消費者契約法第8条1項には、以下の内容が定められています。

消費者契約法

(事業者の損害賠償の責任を免除する条項の無効)

第八条 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。

一 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項

二 事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項

三 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項

四 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項

(略)

 つまり消費者と事業者との間でなされるBtoC取引においては、事業者の損害賠償責任の全部を免除する規定は消費者契約法に抵触するものとして無効(同法8条1項1号及び3号)になります。

 BtoC取引の場合の免責規定は「事業者に軽過失がある場合に」「賠償責任の一部を制限する」規定のみが消費者契約法上有効となります。BtoC、BtoBでそれぞれ無効になる免責規定の範囲については以下の当事務所過去記事に詳しいです。

・利用規約における免責規定は会社を救う(STORIA法律事務所)

 コインチェックの利用規約第17条5項(免責規定)は、理由のいかんを問わずコインチェックが利用者に対して負う損害賠償責任の全部を免除する旨を定めているように読めます。

コインチェックの利用規約のうち少なくとも第17条5項は、消費者契約法第8条1項1号及び3号に反するものとして無効となる可能性が高いと思われます。

 なお東京地裁平成20年7月16日(金融法務事情1871号51頁)は、FX取引の約款で、事業者が定めたコンピュータシステムの故障や誤作動等で生じた損害からは免責されると定めた免責条項につき、消費者契約法第8条1項1号に照らして、事業者に責任がある場合には適用されないと判断しています。

なぜコインチェックは消費者契約法上無効となる免責規定を定めたのか

 それではなぜコインチェックは、消費者契約法上無効となる免責規定を含んだ利用規約を定めているのでしょうか。

 これはひとえに「賠償する責任を一切負わない」と利用規約に書いておくことで、諦めてくれる登録ユーザーもいるかもしれない、という点に尽きると思われます。

 争われたり訴訟になったら無効になるかもしれないが、一定数は規約を見た段階で諦めてくれるかもしれない、利用規約に書いてあるから請求しても無理だな、と思ってほしいわけです。

 ちなみにコインチェックのように、消費者契約法その他の強行法規に抵触して無効となる可能性がある免責規定を利用規約に「あえて」(または知らずに?)設置しているwebサービスは他にもあります。

 免責規定が消費者契約法第8条に抵触して無効と判断されても罰金などの法的ペナルティーがあるわけではなく、民法などの法律に従った処理が行われるためです。

 もっとも消費者契約法に抵触する利用規約を定めている企業に対しては「そのような順法精神しか持ち合わせていない企業」または「消費者契約法すら知らない企業」との評価を免れないでしょうし、やはり消費者契約法を含む強行法規に抵触しない利用規約をきちんと作成しておくことが結局は望ましい、というのが私見であります。


著者プロフィール

弁護士・杉浦健二

弁護士・杉浦健二 

ソフトウェアやシステム開発などのITビジネスにおいて必須となる契約書作成からトラブル解決までを企業の社外法務部としてサポートしています。STORIA法律事務所共同代表。ブログ更新中。


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