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» 2018年02月20日 08時00分 公開

新連載・シリコンバレー式「時短育児術」:男性には想像しにくい「授乳」のつらさ テクノロジーで解決する“ウェアラブル搾乳機”

子育てに関する負担をITで解消する「Baby Tech」。シリコンバレー在住の女性筆者が、“母目線”でぐっときたテクノロジーを紹介する新連載をお届けします。

[近藤奈都美,ITmedia]

 突然ですが、皆さんは育児をしている、もしくはこれから育児に携わる予定はありますか?

 「なぜITmediaで育児?」と思われるかもしれませんが、いま、子育てに関する負担をITで解消する「Baby Tech」といわれる分野が、海外を中心に注目されつつあるのです。

photo CES 2018会場にも「Baby Tech」ブースが

 はじめまして、近藤奈都美です。私は日本でIT専門商社に勤務した後、結婚を機に渡米。いまはシリコンバレーで一児の母として主婦業に全力投球する一方、テクノロジーを使って効率的な子育てを目指す“母目線”の情報メディア「Babyful.jp」を運営しています。他にも女性社員の働き方改革に関心のある企業で講演させてもらったりと、「時短育児」を軸に情報発信しています。

 IoT(Internet of Things)の浸透やハードウェア製造コストの低下によって広がりつつあるBaby Tech。本連載では、Baby Tech関連の製品・サービスにはどのようなものがあるのか、それにより働き方や家族のあり方がどう変わろうとしているか、さまざまな事例を交えながらご紹介していきます。

(本記事は、「Babyful.jp」に掲載された記事を一部加筆・編集して掲載しています。)

母乳で子育てするなら搾乳時間を「時短」 WILLOW WEARABLE BREAST PUMP

 今回は、今年1月に米ラスベガスで開かれた「CES 2018」を振り返りましょう。私もCES 2018に参加し、子育て生活を少しでも快適に「時短」させてくれるアイテムをたくさん目にしてきました。面白いものがたくさんありましたが、まずは個人的にお金を払ってでもほしいなと思った製品をご紹介します。

 母乳育児をしている女性にとって、大変なことの1つが「搾乳・授乳」でしょう。米国では電動搾乳機が広く使われていますが、これを使うと他の人に授乳してもらったり、夜中の授乳を夫に代わってもらって体を休めたりできる一方、一回の搾乳につき約20分間も自由が奪われてしまいます。

 たった20分間と思っても、これが毎日、1日に何回も繰り返されるので、その不自由時間の蓄積たるや言わずもがな。搾乳機の洗浄や消毒など、使用中だけでなく使用後のケアにも手間がかかります。

 そこで今回、CES 2018の会場でインタビューさせてもらったのは、Willow Pumpのジョン・チャンCTOとママユーザーのアリエルさん。

photo チャンCTOとアリエルさん(左から)

 同社が開発する「WILLOW WEARABLE BREAST PUMP」は、ブラジャーの中に入れて装着したままでコードレス・ボトルレスで搾乳できるウェアラブルの“スマート搾乳機”です。

photo willow pumpを開けた様子。完全コードレスで、母乳を入れるバッグも機械の中にセットする。2つセットになっているので、両胸から同時に搾乳が可能

 従来の電動搾乳機は本体が重いほか、コンセントから電源を確保する必要がありました。1回の搾乳に平均20分程度かかるので、その間はジッと1カ所にとどまっていなければなりません。

 一方、この製品は内蔵バッテリー駆動のため、場所を気にせず使用でき、搾乳している時間を無駄にせず、着用している服にもさほど制限を与えません。洗浄すべきパーツもたった2つと驚くほど少ないので、後処理の負担も大きく軽減されます。

 「搾乳機」というと日本ではさほど普及していないようなイメージがありますが、米国では母乳で育てるのであれば過半数の人が持っているものです。というのも、米国では母乳がもたらす乳幼児へのプラスの影響が見直され、近年は生後できれば1年程は母乳で育てることが推奨されています。

 実際、生後6カ月時点で母乳で育てられている子どもの割合は、2000年の35%から2010年には49%に増加(Center for Disease Control調べ)、母乳育児を行う母親の85%近くは搾乳機を利用しているというデータ(LA Times)もあります。

 そして、育児休暇が3カ月と非常に短い米国では、どんな経済状況にいる人もできるだけ母乳育児ができるようにと、オバマケアの一環で2010年に「Affordable Care Act」という法律が制定されました。これにより、自分が加入している健康保険のプランによっては1〜2万円相当の電動搾乳機を無料でもらえたり、レンタルできたりするようになりました(参考:米政府機関Webサイト)。

photo 一般的な電動搾乳機(写真:madela)

 母乳育児は赤ちゃんが泣いたらすぐに母乳をあげられるので楽だと思われがちですが、母乳育児特有の大変さもあります。例えば、赤ちゃんを車に乗せるにはシートに乗せることが義務付けられているので、車の中で赤ちゃんが大泣きしても、どこかに一度駐車しない限りは授乳ができません。特に生後最初の数カ月は授乳頻度が高いため、授乳しながら車を運転し続けられたらどんなに楽か……と思った回数は数え切れません。

 外出先で授乳しやすいメリットに甘んじて、搾乳した母乳のストックをあげることばかりしていると、胸には消費されない母乳がたまる一方。それを放置してしまうと、高熱と痛みに苦しむ乳腺炎が待ち受けています。私も外出の際には大きな搾乳機を車に詰め込んで出かけ、搾乳機に電池を何本も入れ、車の中で搾乳することもありました。

 また、お洒落して出かけようにも、授乳・搾乳しなければならないことを考えると着られる服にも制限が出てきます。服によっては全身脱いでしまわないと授乳・搾乳ができないようなものさえあります。

photo Willow Pumpを解体している様子。部品が少なく、洗浄箇所が2つだけなのもうれしい

 このWillow Pumpのいいところは、ブラジャーの中に搾乳機を入れるだけで「ながら搾乳」ができるところです。にぎやかな会場だったので製品にほぼ耳を付けるくらいの距離で音も聞いてみましたが、一般的な電動搾乳機として出回っているものとは比較にならないほど、動いているのかと疑いたくなるほどに静かでした。これを使えば仕事を中断せず、他の人に気付かれずに搾乳することもできそうです。

 第二子が生まれてからWillow Pumpを使い続けているというママさんに話を聞くと、彼女もこの搾乳機で生活が変わったそうです。最初に彼女を見た時には何も違和感を持ちませんでしたが、彼女はブラジャーの中に搾乳機を入れた状態で話をしてくれていました。

photo Willow Pumpを使い続けているママさん。Willow Pumpを使用したまま話していたが、全く違和感がなくて驚き

 開発のきっかけは、まず同社のCEOが女性であり、世の中の女性の悩みに敏感であったこと。さらにCTOであるジョン・チャン氏の奥さんが3人の子育てで搾乳に対する不満を抱えていて、「女性をもっと自由にするために」と製品化を進めたそうです。

 Willow Pumpの米国での販売価格は479.99ドル(約5万円)。私自身は息子も1歳を目前にしてそろそろ搾乳をする機会が減ってきたので、これから買うには活躍の機会が少なくてもったいないかなと思いますが、次に子どもが産まれた時にはぜひ使ってみたいです。

 無料でもらえる搾乳機もあることを考えると非常に高いのですが、何もできなかった20分が集中して何かができる20分に変わり、搾乳に伴うデメリットが払拭できるなら、この出費は生きたお金の使い方になるはずです。


 次回もCES 2018から、親たちが悩む「子どもの歯磨き」をAR(拡張現実)で手助けするプロダクトをご紹介します。

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