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漫画家・赤松健さんに聞いた、「海賊版サイトをつぶす唯一の方法」(1/3 ページ)

» 2018年05月11日 06時00分 公開
[村上万純ITmedia]

 「海賊版サイトをつぶす方法は、ブロッキングでも広告収入を断つことでもない」――「ラブひな」「魔法先生ネギま!」などのヒット作で知られる漫画家の赤松健さん(日本漫画家協会理事)は、こう話す。

 漫画市場に大きな被害をもたらしたとされる海賊版サイト「漫画村」(今はアクセス不可)が社会問題化し、対抗策として「ISPによるサイトブロッキング」や「運営資金のもとになる広告収入を断つ」といった提案がされてきたが、いずれも回避方法があるためあまり有効ではないという。今でも海賊版サイトと権利者のいたちごっこは続き、根絶には至っていない。

 絶版本を中心に5000冊以上の漫画を無料配信するサービス「マンガ図書館Z」を運営するなど、これまで漫画業界発展のためにさまざまな活動をしてきた赤松さんは、「海賊版サイトには技術で勝てる」と豪語する。

マンガ 絶版本を中心に5000冊以上の漫画を無料配信するサービス「マンガ図書館Z

 赤松さんの考える「海賊版サイトをつぶす唯一の方法」とは。漫画業界の現状についても聞いた。

海賊版サイトなくてもコミック売上伸び悩み

――(ITmedia村上) 全国出版協会が2月26日に発表した2017年のコミック市場統計では、紙と電子を合わせたコミック市場規模(推定販売金額)は前年比2.8%減の4330億円と、ピーク時の95年5864億円の4分の3ほどになっている。ここ数年は市場規模が横ばいだが、漫画家としてコミックの売上にどこまで海賊版サイトが影響していると感じているか。

赤松さん 「ラブひな」「魔法先生ネギま!」などのヒット作で知られる漫画家の赤松健さん

 コミック売上の初版は、ピーク時の3分の1くらいに落ちたという体感。業界全体が伸び悩んでいるので、海賊版サイトだけの影響ではないだろう。ただ、海賊版サイトが追い打ちをかけて「もうコミックを買わなくていいんだ」という常識ができてしまったのは問題だと思う。

 私のように紙(コミック)が売れている漫画家はまだいいが、Webで連載している若手漫画家はそもそも紙を刷ってもらえない。(収入源が限られているので)そういう人は、漫画をスキャンされたり、電子データをキャプチャーされて勝手にアップロードされたりすると被害は大きい。

 海賊版の配信は早く、画質も良い。例えば「週刊少年マガジン」は水曜日発売だが、海賊版は(前週の)土曜日には配信されている。これは配送業者が原因だが、全部の雑誌を管理するのは難しいだろう。

―― 絶版本を中心とした無料漫画配信サービス「マンガ図書館Z」は「電子書籍版YouTube」を掲げ、さまざまな作品を収集することで海賊版サイトや外資サービスへの対抗としても機能してきた。絶版本や単行本化されていない作品についても、海賊版の被害は深刻か。

 (1)絶版本や単行本化されていないもの、(2)エロ漫画や二次創作同人誌、は海賊版の天下。前者は出版社もコストパフォーマンスの問題で電子化できない。後者は、海賊版なら無修正で出せるので圧倒的に強い。同人作家も二次創作の特性上(原作者に無断で二次創作している、権利者として認められるのかなど)、海賊版サイトを訴えることは少ない。

 公式が何もせず、海賊版サイトでしか見られない作品があるならそこに行ってしまうのは分かる。なので、絶版本などの過去作品についてはマンガ図書館Zに集約している。読者にとっては過去作を読めるメリットがあり、作家にとっては(1)過去作からの広告収益や読者の反応が得られる、(2)現在の作品への流入につながる、といったメリットがある。公式で作品を配信できれば読者は見に来てくれる。

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