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» 2018年05月18日 06時00分 公開

“日本が知らない”海外のIT:家具が自動で組み上がる未来も? 世界で広がる「4Dプリント」研究

3Dプリンタを使って印刷されたフラットな印刷物が、熱や水などの力で立体に姿を変えていく──そんな4Dプリント技術の研究が世界中で進められている。

[中井千尋,ITmedia]

 2013年ごろから、マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究室などで開発が進められてきた4Dプリント技術。3Dプリンタを用いて製造した印刷物が、何らかの外部からの刺激に反応し、時間経過で最終的な形へと変化する技術だ。

 その4Dプリント技術の研究・開発が近年活発になってきている。オランダ・デルフトのデルフト工科大学や、米国ペンシルベニア州にあるカーネギーメロン大学が昨年から立て続けに発表しているのが、3Dプリンタを使用して印刷されたフラットな印刷物が、熱の力で最終形態に組み立てられるというもの。

 しかも、これらの4Dプリント技術には注目すべき共通点がある。一体この2つの研究成果は何が特別なのだろうか。

大学研究 カーネギーメロン大学の研究

連載:“日本が知らない”海外のIT

日本にまだ上陸していない、IT関連サービス・製品を紹介する連載。国外を拠点に活動するライター陣が、日本にいるだけでは気付かない海外のIT事情をお届けする。


熱で勝手に最終形態へと折れ曲がっていく印刷物

 デルフト工科大学のアミール・ザドプル(Amir Zadpoor)教授率いる研究チームが開発したのは、熱に反応してあらかじめ決められた順番でパーツが折れ曲がり、最終形態へと変化する4Dプリント技術だ。日本の折り紙にヒントを得たという。

 研究チームは、素材の印刷と引き伸ばしを同時に行うことで、それぞれのパーツが折れ曲がる時間をプログラミングすることに成功したという。

 実験で再現されたのは、チューリップの花。3Dプリンタで印刷されたフラットな素材がお湯に浸されると、内側の花びらから順番に中心に向けて折れていき、最終的には6枚の花びら全てでチューリップの花を形づくる。

 カーネギーメロン大学のモーフィング・マター研究室でも、同じく熱に反応してフラットな印刷物が自動的に組み立つ4Dプリント技術「Thermorph」が研究されている。

 この技術は、FDM(熱溶解)方式3Dプリンタでは通常欠陥として見なされる、印刷物の冷却段階で生じる「反り」をうまく活用したもの。研究室が開発したソフトウェアを用いると、印刷物の設計段階で自動的にプリント速度やパターンを計算し、最終形態をインプットできるという。

 実験で製作されたのは、バラやミニボート、ウサギなど。動画では、フラットな状態で3Dプリンタから出てきたこれらの印刷物が、お湯に浸されると自然に曲がりだし、最終形態へと変化する様子が映されている。Thermorphで印刷された物体は、お湯だけでなく、太陽光やヒートガンの熱などでも反応する。

手が出せないイメージの4Dプリント技術が身近な存在に

 冒頭でも触れたように、これら2大学の研究成果である4Dプリント技術は世界初のものではない。

 MITは13年に、水に反応して形状を変えていく物体を3Dプリンタで印刷することに成功している。また、ジョージア工科大学やシンガポール工科デザイン大学、中国の西安交通大学出身の研究者チームでも、熱に反応して形づくる4Dプリント技術を開発している。

 では、なぜデルフト工科大学とカーネギーメロン大学が開発したこれらの4Dプリント技術は注目に値するのか。それはどちらの研究でも、使用しているプリンタや素材が手の届く範囲のものだからだ。

4D カーネギーメロン大学で使用されている3Dプリンタ「Makerbot Replicator 2X」

 使用しているのは、通常数十万円で購入可能なデスクトップタイプの3Dプリンタ(デルフト工科大学ではUltimaker 2+ Extended、カーネギーメロン大学ではMakerbot Replicator 2X)と市販のフィラメント。広い範囲での実用化を前提としているのだ。

 実際に、カーネギーメロン大学モーフィング・マター研究室のリーニン・ヤオ(Lining Yao)助教授は「We wanted to see how self-assembly could be made more ─democratic─accessible to many users(セルフアセンブリーの技術が、どれほど多くのユーザーに浸透するか見てみたいと思った)」と、Thermorphの開発のきっかけを語っている。

さまざまな分野で実用化が期待できる4Dプリント技術

 これら2つの4Dプリント技術には、将来実用化を目指すプロダクトがある。

 デルフト工科大学では、同研究チームで以前から研究してきた医療用インプラントのさらなる改良を目指している。腫瘍ができた骨などの代わりに、折り紙スタイルの4Dプリント技術で作った、多孔性のある補綴(ほてつ)具をインプラントする。その補綴具に細胞の成長を導くナノパターンを含ませることで、失った骨の再成長を期待できるという。

4D 医療用インプラントへの応用の実現へ期待が高まる

 もう1つは、自動組立式家具の実用化だ。同研究チームのメンバーは皆、IKEAの説明書の解読に嫌気が差しており、将来IKEAの家具が全てフラットになり、何もしなくても組み立てが完了することを夢見ているという。

 カーネギーメロン大学でも家具への実用化を検討中。その他、ボートや人工衛星、緊急時のシェルターなどの製造ができるよう、技術のスケールアップを目指し研究を進めている。

 4Dプリント技術は、ただ立体を作り出す3Dプリント技術に比べ、応用できる範囲が広がるだろう。家具や人工衛星、シェルターにしても、フラットな状態で製造、輸送、保管ができることは大きなメリット。また、何を作るにも時間がかかる3Dプリンタだが、立体よりもフラットなモノを印刷する方が時間の節約にもなるのは明らかだ。

 その4Dプリント技術が、今回紹介した研究のように手の届く存在になれば、より多くの企業や個人が導入できるようになり、4Dプリント技術の発展も期待できるだろう。今後のさらなる開発に注目したい。

執筆:中井千尋

編集:岡徳之(Livit


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