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流通テック

ECで流通を革命したAmazon 今なぜリアル店舗に注力するのか特集・ITで我慢をなくす「流通テック」(2/4 ページ)

» 2018年07月05日 13時00分 公開

物流とテクノロジーへの投資を加速

 この利益率の低さは「出た利益をすぐ投資にまわす」「税金対策」といった部分にも起因するが、Amazonが現在の地位を築くまでに追求してきたのが「マージンをギリギリまで削り他社より安価に販売」「間接コストを下げるための徹底的な投資」「将来のビジネスを生み出すための技術への投資」の3つの要素だ。

 特に1つ目について顕著なのが「安売り攻勢でシェアを一気に奪取する」というもの。例えば、同社は電子書籍の世界で2007年に「Kindle」を発表して勢力を拡大していくが、ここで採ったのが「なるべく電子書籍端末を安価にバラまき、コンテンツ(電子書籍)で稼ぐ」という戦略だ。

 タブレットの「Fireタブレット」やセットトップボックスの「Fire TV」、スマートスピーカーの「Amazon Echo」にもいえることだが、同社はこうしたバラまき施策を多用してきた。Kindleに関しては「他社より安価に販売することが取り扱いの条件」として取り次ぎに強制するといった強引な手法も話題になったが、こうした徹底ぶりはかつて「パラノイア(偏執狂)」と評されたIntelやMicrosoftの姿とダブる。

Amazon 「Fireタブレット」はコストパフォーマンスの高いタブレットとして知られる。これは本体を安くして、Amazonからコンテンツを購入、あるいはサービスを契約してもらうことで稼ぐという戦略だからだ

 もう一つ重要となるのが投資の部分だ。Amazonは1990年代後半に独自の物流センターを使った配送システムを整備し始めてから「物流(Fulfillment:通販やECにおける受注から配送までの業務全般)」への投資を特に強化してきた。ここ6〜7年ほどは投資が顕著に加速しており、販売コストを含むコスト全体の10〜15%程度を占めるようになっている。

 現在、Amazonは倉庫のロボット化を進めており(2012年に買収した「Kiva」の名称で知られるシステム)、ロボットが倉庫内を動き回って商品の棚入れや棚出しを行うことで、受注から配送までの作業効率を高めている。こうした最新テクノロジーを使った人材配置の最適化や省力化は、コスト増の理由の一つだろうが、後にその効果で競合に差を付けることができるわけだ。

Amazon 自走式ロボットが動き回るAmazonの倉庫(写真はアマゾン川崎FC)

 倉庫を主要な移動拠点に設置するだけでなく、可能な限り消費地に近い場所に配置し、どうすれば物流を最適化できるかという運営ノウハウを蓄積してきたことも同社の強みだ。この最適化により、後述の「Amazon Prime」サービスにおける「Prime Now」のような即日配送を可能にし、末端の流通網を特定事業者に委ねるリスクを軽減できる。

 日本ではヤマト運輸との料金値上げ交渉の過程で一部荷物がデリバリープロバイダーに委託され、そのクオリティーの低下が大きな問題となったが、こうした問題への対処も含めてサービス展開地域で常に最適解を探し続けている。

 この物流サービスは競合他社と比較しても非常に強力なもので、Amazonの倉庫を使って在庫管理からオンライン受注、発送までを代行する「Fulfillment by Amazon(FBA)」というサービスを2006年に開始している。自社の商品をAmazonの先進的なシステムでオンライン販売できることがメリットだ。

 サードパーティーがAmazonのサイト経由で商品を販売する「Amazon Marketplace」の一部はFBAを活用する形で運用されており、これを通じて販売されるものはAmazon全体の販売金額の3割を越え、同社の重要な収益源かつ市場規模の拡大に寄与している。

 また、かつては単なる書籍のオンライン流通業だった同社が今の“何でも屋”的な業態を得るまでに行ってきたのが、将来に向けた投資だ。中でも業務を効率化し、新しいビジネスを生み出すIT関連の投資には熱心で、近年特にその投資比率がFulfillmentに匹敵する水準まで伸びている。

 次代の小売プラットフォームを目指して開発されたAmazon Goは、直近のIT関連投資における目立った成果だ。

リアル店舗がないことで失っていた顧客との接点を創出

 Amazonの好調に対して苦戦が続くといわれるリアル店舗だが、大手はオンライン対応を主軸にしたオムニチャネル(オンラインとオフラインのシームレスな購買環境)化、中小は店舗ごとの特色強化やイベントとの組み合わせによる集客アップなど、さまざまな方策を巡らせている。

 こうした中でリアル店舗に進出したAmazonは、やはり低利益率を徹底している。競合する既存の小売店がブリック&モルタル(実店舗)で商品を売って生計を立てるという呪縛から逃れられないのに対し、Amazonでは「コストを極限まで削りつつ、事業全体で生計を立てる」という手段で立ち向かう。

 現時点でのAmazonは、リアルな店舗スペースを基本的にオンライン事業の補完程度にしか考えていない。それは商品を受け取るためのロッカーだったり、宣伝のためのポップアップストアだったりといった具合だ。

 宅配では、必ずしも注文者が配送先にいるとは限らない。ロッカーの存在は、こういった時間のギャップを埋めて利便性を高める手段となる。ポップアップストアはKindleの関連製品を扱うなど、Amazonのサービスを宣伝するためのもので、米国では大きな百貨店やモールなどを訪問すると比較的よく見掛ける。こういったストアはKindle製品を売ってもうけるというよりは、Amazonという会社を認知し、その入口となるデバイスをバラまくための手段として活用される。

Amazon 米国の7-Eleven内に設置されたAmazon Locker。サンフランシスコ中心部だけでも4つ以上のピックアップポイントがある
Amazon サンフランシスコ市内のWestfield Centre内にあるAmazonのポップアップ店舗。KindleやAmazon Echoの展示販売を行っている

 つまり、これまでのAmazonのオフライン戦略とは、リアル店舗がないことで失っていた顧客との接点を作ることだったわけだ。

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