Amazonはリアル店舗に注力する一方で、家庭内における顧客とのタッチポイント増強も着々と行っている。
現在Amazonではスマートフォンなどモバイル端末経由での注文が大部分を占めるといわれており、デスクに腰を据えてPCと向き合う必要があった時代に比べてユーザーとの接触時間が増え、これがAmazon全体の売り上げを押し上げる効果ももたらしている。
だが必ずしもスマートフォンが全てのユーザーとの接触時間をカバーできるわけではない。そこで特に、家庭内においてさらにタッチポイントを増やす役割として期待されているのが「Amazon Dash」や「Amazon Echo」だ。
Whole Foodsや趣味の製品選びのように買い物体験そのものが重要なケースとは異なり、Amazon Dashで注文する消費財や飲料などは単に在庫を切らさないことが求められる。その点、洗濯機の横にAmazon Dashの洗剤注文ボタンを設置しておけば、使い切る直前にボタンを押すだけで追加注文できて面倒がない。
Amazon Echoを使った「Alexa経由での音声ショッピング」も同じアイデアの延長にあるが、消費財中心のAmazon Dashと比べて応用範囲は幾分か広い。
例えばキッチンから声の届く範囲にAmazon Echoがあれば、Alexa経由で不足している食材や調味料を追加注文できる。またリビングにいる時間でも、スマートフォンに触れていないタイミングでテレビで見た商品を注文したり、あるいはPCの操作中でも画面を遷移せずにAlexaに話し掛けたりと、いろいろなシチュエーションが考えられる。
決してメインの購買経路ではないものの、従来であれば「まぁいいか」と考えていたような取りこぼしポイントで、潜在的な顧客を得られるメリットは大きい。
Amazonの戦略はシンプルといえる。徹底的なコスト削減と最適化を目指す一方で、新技術への投資をいとわない。その目指すところは「ユーザーとの接点を可能な限り増やし、(小売業としての)流通のあらゆるルートに食い込む」というものだ。
オンラインで自社倉庫を整備して独自の流通システムを構築し、このシステムを使ってMarketplaceサービスやFBAサービスを提供してサードパーティーの流通を取り込み、さらにAmazon Payでオンライン決済プラットフォームを第三者に提供することで、Amazonだけではカバーしにくいサービス業への食い込みを図っている。
これらは主にオンラインを対象としたものだが、最終的に都市部などの人口密集エリアでは必ずしもオンライン配送でカバーしきれないニーズがあり、これを補完すべく登場したのがWhole Foods買収やAmazon Goの展開となる。
かつてオンラインがそうだったように、こうしたオフラインでのリアル店舗でも、サードパーティーのサービス取り扱いの他、Amazon Goと同じレジなしシステムの外販など、Amazon Payに近い業態が登場する可能性が高い。
現在は米国を中心に起きつつある変化だが、同社が進出している海外のエリアも含めて実践されていくだろう。同社の最大の武器は、ITを駆使して最適化したシステムであり、これが競争力の源泉だ。やがては規模の経済を生かして囲い込みが増えてくるとみられ、既存の事業者はAmazonに真正面から対抗するのか、あるいは組むべきところは組んで自社の商圏や売り上げの拡大を目指すのか、選択を迫られることになる。
現在、米国の内外でWalmartなどの流通大手や百貨店各社が遭遇しているのが、まさにこの選択を発端とする瀬戸際の攻防だ。そして、Amazonのこうした戦略には、もちろん日本市場も含まれている。
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