経営者にとって頭が痛いのが、アルゴリズム開発で積み重なるコストだ。児玉さんは「ベンダーからの提案を咀嚼(そしゃく)できないのは一番の地雷」と警鐘を鳴らす。
例えば、AIの予測モデルを作るプロジェクトを始めるときに、外部のベンダーを頼ったとしよう。そこで複数のアルゴリズムを組み合わせる必要があると言われた場合、依頼した側でAI開発の知識が不足していると、提案されるがままに“過剰な実装”をしてしまう可能性がある。
児玉さんは「どのベンダーも、うちは画像認識が得意ですなど得意ジャンルをうたっている。それが自社にとって必要なものかどうか、見積もりの確認ポイントを分かっていないといけない」と説明する。
そして、ようやくAIを開発できたとしても「思っていたものと違うものができた」「利用者が必要としていないAIが完成してしまった」と、求めていた成果物を得られずがっかりする例はある。
「誰も使わないものができてしまう」という課題は、電通社内でも抱えているという。児玉さんは「誰がどのように使うのかという設計をあらかじめ明確にしなければならない」と強調する。
「マーケティングと同じで、すごくおいしいものを作りましたと言っても、誰が、いつ、どういう気持ちでそれを食べるのかまで設計しないと誰も食べてくれない。便利なAI、使いやすいAIを作りましたというだけでは誰も使ってくれない」(児玉さん)
これを防ぐには、AI開発を開発部門だけに任せるのではなく、利用者に近いメンバーを巻き込んで開発を進める必要があるという。「AI開発は“俺が使いたい”というような、一人称のドリブンが重要になってくる」(児玉さん)
児玉さんがリーダーを務めるAI MIRAIでは、AIプロジェクトを進める上で起こる失敗の経験を“集合知化”することに努めている。経験値の高いメンバーが新プロジェクトのフォローに入ることで知見をためていき、いまでは機械学習開発の約半分を内製できるようになったとしている。AIプロジェクトを成功させるには、挑戦と失敗を繰り返す“急がば回れ”の精神が重要なのかもしれない。
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