木質バイオマスで、発電時の熱を塩の製造に利用自然エネルギー

兵庫県赤穂市の製塩工場が自家発電設備の入れ替えに合わせて、木質バイオマス発電設備を導入する。発電した電力を全量電力会社に売電して収入を得る一方で、発電時に発生する熱を塩の製造に活用する。

» 2012年10月04日 13時15分 公開
[笹田仁,スマートジャパン]

 塩の製造を手掛ける日本海水は、兵庫県赤穂市にある自社工場に木質バイオマス発電設備を建設する(図1)。出力は16.53MW(1万6530kW)。元々保有している自家発電設備が老朽化したため、代わりに導入するもので、同時に天然ガスを燃料とする発電設備(出力は7.7MW)も設置する。2012年12月に着工し、2015年1月に運転を始める予定だ。

図1 日本海水の赤穂工場

 木質バイオマス発電設備で発電した電力は全量電力会社に売電するが、日本海水の狙いは売電収入だけではない。発電のために木質バイオマスを燃焼させたときに発生する熱を利用して蒸気を作り、本業である塩の製造に活用する計画だ。木質バイオマス発電設備をコージェネレーションシステムのように利用しようというわけだ。

 塩の製造にはかなりの電力と熱が必要だ。イオン交換膜を使って海水を濃縮するときに大量の電力を消費し、濃縮した海水を熱して水分を蒸発させるには、高温の蒸気を使用する。日本海水は木質バイオマス発電設備が放つ熱を利用して、売電収入を得るだけでなく、塩の製造コストを抑えることを狙っている。

 木質バイオマス発電設備と同時に導入する天然ガス発電設備でも、発電時の熱を利用して蒸気を作り製塩に利用する。発電した電力は海水の濃縮に利用する。

 木質バイオマス発電設備の燃料には3種類の木材チップを混合したものを使う。間伐材などの未利用木材と、材木の端材などの一般木材、家具などから得たリサイクル木材の3種類だ。

 再生可能エネルギーの固定価格買取制度では、燃料となる木材の種類によって、電力の買取価格が異なる。そのため日本海水は、木材チップを仕入れたときに原料の比率を細かく調べる。比率によって電力に付く価格が変わるからだ。ちなみに木質バイオマス発電の場合は買取価格は未利用木材なら1kW当たり33.6円、一般木材は1kW当たり25.2円、リサイクル木材は1kW当たり13.65円だ。

 日本海水は木質バイオマス発電設備を導入した理由として、まず製塩に利用できる蒸気が得られるという点を挙げた。さらに、赤穂市周辺は林業が盛んで、間伐材が豊富に得られるという点も大きいという。木質バイオマス発電を始めるに当たって、木材供給会社と木材チップの長期供給契約を結べることになったことも決断を後押ししたという。

 稼働開始後は年間8000時間運転する計画。年数回のメンテナンス時のみ停止させる。年間発電量は約128万MWh(12億8000万kwh)に上る見込みだという。これは、一般的な世帯が年間に消費する電力の2万6000件分に当たるという。ちなみに、赤穂市の全世帯数は2万94世帯。日本海水が設置する木質バイオマス発電設備による電力だけで、赤穂市の一般家庭が必要とする電力をまかなえるわけだ。

 再生可能エネルギーによる発電設備を導入した例の中でも、日本海水の例は、林業が盛んな土地柄と、本業に必要な熱を得られるという利点をうまく利用した例と言えるだろう。

 日本海水は香川県坂出市の讃岐工場と、福島県いわき市の小名浜工場でも固定価格買取制度を利用した売電事業を計画しているが、発電方法は周辺の環境をよく考えて決めるという。

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