家電の制御や機器の推定も可能、新世代HEMSの実験が始まるエネルギー管理

NTT西日本とNTTは家電を制御する機能などを搭載した次世代のHEMS(家庭向けエネルギー管理システム)を開発した。熊本市内の一般家庭50世帯に試作品を設置し、利便性などを評価する実験を始める。実験の期間は2013年2月から8月。

» 2012年11月13日 11時00分 公開
[笹田仁,スマートジャパン]

 西日本電信電話株式会社(NTT西日本)と日本電信電話株式会社(NTT)が今回開発したHEMSは、消費電力量データをインターネット上のサーバーに送信する機能に加えて、インターネット側からの指示に従って、家電製品を制御する機能と、住宅内で電力を消費している機器を推定する機能を搭載したものだ(図1)。消費電力量などのデータは、現在NTT西日本が提供しているHEMSと同じように、インターネット上のサーバーが集計する。ユーザーがパソコンなどのWebブラウザでアクセスしてきたら、グラフなどの形で提示する。

図1 実験で利用するシステムの全体像。データの集計や分析はサーバーが担当する

家電製品の制御には赤外線リモコンを利用

 家電製品の制御には、学習機能を持つ赤外線リモコンを利用する。主な制御対象としてはテレビ、エアコン、照明を想定している。これらの機器が受け付けるリモコンの信号を学習し、1つのリモコンですべての機器を制御できるようにする。

 このリモコンは家庭内に設置する「無線親機」と、家電向け制御プロトコルである「ECHONET Lite」で通信する機能を持つ。インターネット上のサーバーから、ECHONET Liteの信号が無線親機に届いたら、ECHONET Liteの信号を「ZigBee」という方式の無線通信でリモコンに送信する。ユーザーはインターネット上のサーバーにアクセスすることで、家庭内の家電製品を遠隔操作できる。

 現在のところECHONET Liteの通信を受け付ける家電製品がほとんどないため、赤外線リモコンを経由して制御する方式を採ったが、今後無線親機とECHONET Liteで直接通信できる家電製品が増えてきたら、リモコンを経由せずに、直接通信できるようにすることも検討するとしている。

電流の波形から、電力を消費している機器を推定

 家電制御機能に加えて、電流の波形を見て、その時点で電力を消費している機器を推定し、それぞれの消費電力量も推定する機能を搭載していることも大きな特長だ。分電盤の中にある住宅全体の消費電力を計測できる位置にセンサーを1つ取り付け、家電製品が稼働することによる電流の波形の変化を読み取り、その波形をインターネット上のサーバーに送信する。

 サーバーは受信した波形を一瞬で解析し、動作している家電製品を推定し、機器ごとの消費電力量も推定する。サーバーが推定した機器ごとの消費電力量は、サーバーにWebブラウザでアクセスすることで確認できる。今回の実験では、エアコン、冷蔵庫、照明器具、テレビ、電気カーペットの5種類の家電製品を正しく認識することを目指している。

 推定の精度は「研究室で実験したところかなり高い」とのことだが、実際の住宅で利用したときに精度がどのように変化するかはまだ分からない。今回の実験では推定の精度を検証し、向上させるということも目的としている。精度を検証するために、実験では推定機能を利用できる世帯を25世帯に限定する。機器ごとに取り付けたスマートタップ(50世帯すべてに配布)で計測したデータと、推定結果を比較し、精度を上げていくという。

 ほかにも実験の目的として、外出先から家電を制御する機能の利便性の検証や、センサーやスマートタップが無線親機と通信する際に、無線が届く範囲の検証などが挙げられる。

 ECHONET Liteを搭載した家電製品が普及し、今回の実験で使用する無線親機と問題なく通信できれば、家電製品と直接通信して制御するだけでなく、消費電力量のデータを取得することも可能になる。しかし、家電製品の買い替え周期を考えると、ECHONET Liteが一般家庭で普通に使えるようになるまでにはかなりの時間がかかるだろう。ECHONET Lite対応機器が各家庭に行き渡るまでは、電流の波形から機器を推定する技術が活躍するはずだ。

 さらに、すべての家電製品がECHONET Liteの通信機能を搭載するということも考えにくい。ECHONET Lite対応製品が各家庭に行き渡ったとしても、家庭にあるすべての機器ごとの消費電力量を計測するには、波形から機器を推定する技術が役に立つ。今回の実験はHEMSの未来像を模索する試みと言えるだろう。NTT西日本は、実験が終わった後の実用化について「現在提供しているHEMSと比べて大幅に高いということでは受け入れてもらえないだろう」と考えているという。便利な機能だけでなく、価格も期待できそうだ。

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