もう増えることのない電力需要、省エネと創エネで原子力は不要に2013年の電力メガトレンドを占う(3)

原子力発電の必要性は意見の分かれるところだが、最近の電力需給状況を見る限り、放射能汚染のリスクを抱えてまで稼働させる理由は見あたらない。企業と家庭の節電対策で今後も電力需要は抑えられ、太陽光発電やガスコージェネの拡大が電力会社の販売量を押し下げていく。

» 2013年01月23日 09時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 2011年3月に発生した東日本大震災を契機に、日本の電力事情は大きく変わりし始めた。それまで電力の2割以上を供給してきた原子力発電が使えなくなり、夏と冬の電力不足が現実的になったためだ。「不足するならば節約を」というわけで、企業と家庭の多くが節電に取り組んできた。

 その結果、電力の需要を抑えることができ、実質的に原子力発電がない状態でも電力が不足する事態には陥っていない。今年の夏に計画停電の可能性を示唆して大飯発電所を再稼働させた関西電力では、定常的に供給力が需要を大きく上回っている。

 今後はどうかと言えば、もはや電力の需要が増えることはなく、むしろ全国各地で徐々に減っていくだろう。

電力需要のピークは2007年

 実際のところ日本全国の電力販売量(電力会社10社の合計)は2005年あたりから横ばいの状態が続いていた。ピークは2007年度で、以後はその水準を超えたことがない(図1)。毎年の天候や経済状況による変動はあるものの、エアコンをはじめ電気機器の消費電力が年々下がり、利用者が意識しなくても電力の使用量を抑制できるようになっている。

図1 電力販売量の推移。出典:電気事業連合会

 そのような状況にあって大震災後に特定の地域で節電対策が実施された結果、電力の需要はさらに減少した。2010年1月〜2012年12月の全国の電力販売量を月別に見ると、2010年に比べて2011年と2012年は明らかに低くなっている。年間で平均すると5%程度の減少になる。

 特に減少の幅が大きいのは、節電目標が設定された2011年と2012年の夏だ。2011年は東京と東北、2012年は関西・四国・九州の3地域に節電目標が設けられたことで、7月〜9月の全国の電力販売量は2010年と比べて10%前後も減少した(図2)。

図2 月別の電力販売量(電気事業連合会による電力会社10社の合計)

 今後さらに節電対策が全国で浸透していけば、電力需要は確実に減っていく。これまで冬の節電は特に意識されていなかったが、この冬に初めて節電目標を設定した北海道では寒さが厳しい中でも需要は抑えられている。ほかの地域でも冬の節電に取り組めば、夏と同様に需要は下がるはずだ。

省エネ機器や自家発電設備に補助金

 政府は2013年度の予算で省エネ(節電)と創エネ(発電)に対する補助金を大幅に増額することを決めた。企業では省エネ機器やBEMS(ビル向け管理システム)を導入しやすくなり、太陽光発電やガスコージェネレーションなどの自家発電設備を使って電力会社からの購入電力を減らすこともできる。

 こうして利用者側で需要を抑制できる一方、供給面では原子力発電に依存しなくても十分な電力を確保できる体制が整いつつある。注目すべきは発電効率を高めた火力発電設備が増えてきたことだ。従来と比べて同じ量の燃料で多くの電力を作ることができ、しかもCO2排出量が少なくなる。

 実際に各電力会社は火力発電設備の増強に取り組み、原子力の減少分を補う対策を進めている。新たに建設する火力発電所には高効率の設備を導入し、古い火力発電所の設備も順次切り替えていく予定だ。これで燃料費を格段に減らすことができる。

 企業や家庭の省エネと創エネ、さらに火力発電や再生可能エネルギーの増加で、今後ますます原子力発電の必要性は薄れていく。天然ガスの価格低下も想定されるため、火力発電の増加を理由に電気料金を値上げすることは難しくなる。

 残る問題は高コスト体質の電力会社の経営状態である。これから政府が具体案を詰める発送電分離によって電力会社を機能別に解体することも有効な解決策のひとつになる。もはや日本のエネルギー政策の方向性は明らかで、あとは実行スピードにかかっている。

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