政府に原子力を提言した「懇談会」、推進派によるロビー活動の思惑法制度・規制

国のエネルギー戦略のあり方が問われるなか、2月25日に「エネルギー・原子力政策懇談会」と称するグループが安倍首相を訪問して提言書を手渡した。その内容は原子力発電所を再稼働させることを主張するもので、懇談会のメンバーには鉄鋼・商社・電機の代表が顔をそろえる。

» 2013年03月01日 15時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]
図1 提言書の表紙。内容は6ページにわたる。出典:エネルギー・原子力政策懇談会

 安倍首相に手渡された提言書のタイトルからして強烈である。「責任ある原子力政策の再構築〜原子力から逃げず、正面から向き合う〜」と付けられている(図1)。

 この提言書をまとめた「エネルギー・原子力政策懇談会」は有志の集まりという形式をとっていて、会長を務めるのは元・東京大学総長の有馬朗人氏である。安倍首相に提言書を手渡したのも有馬氏だ。

 提言書には3つの提言が示されている。第1に「福島第一原発の廃炉と被災コミュニティの復興」、第2に「国際スタンダードに則ったプロフェッショナルによる安全規制」、第3に「安全を大前提にしたエネルギーの総合最適政策」である。さまざまな理由や背景をもとに主張を展開しながら、結論として原子力発電所を再稼働する必要性を訴えている。

 原子力発電を復活させる理由のひとつとして、火力発電の増加による燃料費の問題を挙げていて、「年間3兆円超の国富の流出が生じている」と指摘する。しかし、福島第一原発の事故によって失われた“国富”は、有形・無形のものを含めて3兆円などという規模では済まないほど大きいと考えるべきだろう。

 懇談会のメンバーには原子力を推進する企業の経営者や団体のOBが名を連ねていて、実態は推進派によるロビー活動と言える。安倍首相は2月28日の施政方針演説の中で、「安全が確認された原発は再稼働する」と明言した。原子力に偏重した提言が国のエネルギー戦略に影響を及ぼさないことを期待したい。

 提言書に記載されているメンバー29人の中には、学界や原子力関係団体のOBのほか、産業界からは以下の各氏が個人名で並ぶ(カッコ内の企業名はスマートジャパンが調べたもの)。産業界とは言っても、鉄鋼・商社・電機の3業種に集中していて、他の業種は加わっていない。

今井敬(新日本製鐵)、槍田松瑩(三井物産)、岡素之(住友商事)、勝俣宣夫(丸紅)、川村隆(日立製作所)、北村秀夫(東芝)、小林栄三(伊藤忠商事)、佐藤育男(日本製鋼所)、島田昌幸(テレビ東京)、佃和夫(三菱重工業)、中村邦夫(パナソニック)、以上敬称略

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