水路があれば発電できる「小水力発電」キーワード解説

再生可能エネルギーの中で、太陽光発電と並んで導入しやすいのが「小水力発電」である。水が流れているところであれば、発電機を設置して発電することが可能だ。全国各地の農業用水路をはじめ、浄水場やダムの放水路など、すでにある水流を生かした小規模な発電設備が広がってきた。

» 2013年03月22日 15時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 水力発電が再生可能エネルギーかどうかは、議論の分かれるところだ。群馬県で建設中の八ツ場(やんば)ダムでも問題になったように、大規模な水力発電は環境への影響が大きく、再生可能とは言いがたい。しかし既存の水の流れを損なわずに発電できるのであれば、まさに再生可能エネルギーになる。そこで注目を集めているのが「小水力発電」である。

 水力発電を大・中・小と規模で分けるようになったのは最近のことで、今のところ明確な基準はない。現実的な区分方法は、2012年7月に始まった再生可能エネルギーの固定価格買取制度に合わせることだろう。この制度では5種類の再生可能エネルギーのひとつとして「中小水力」が対象に含まれている。

 中小水力は発電設備の出力の大きさによって3段階に分けられている(図1)。最も規模が大きい「1000kW以上3万kW未満」を「中水力」、規模が小さい「200kW以上1000kW未満」と「200kW未満」を合わせて「小水力」、とするのが現在の一般的なとらえ方だ。200kW未満を「マイクロ水力」と呼ぶ場合もある。

図1 中小水力発電に対する買取価格。出典:資源エネルギー庁

 水力発電の発電量は、流量と落差で決まる。大規模なダムを造って大量の水を高いところから低いところへ流して発電するのは、流量と落差を大きくするためである。ただし小さな流量と落差でも発電できる。小川の水の勢いで水車が回って機械を動かすことは昔から実践されてきた。その機械を発電機に変えれば小水力発電になる。

 農業用水路を使って小水力発電を実現した好例が、栃木県の那須塩原市にある「百村(もむら)第一発電所」である(図2)。わずか2メートルの落差を生かして30kWの発電を可能にした。用水路の一部に、水車を組み込んだ発電設備を設置するだけである。

図2 百村第一発電所。出典:農林水産省関東農政局

 小水力発電のメリットとして、設備を導入しやすいことに加えて、天候の影響が小さい点が挙げられる。水流は降水量によって変動はあるものの、太陽光や風力に比べると安定していて、しかも1日24時間を通してエネルギーを生み出すことができる。そのために発電効率が非常に高くなる。

 発電設備の出力の大きさに対して実際に得られる電力の量を示す指標として「設備利用率」を使うのが一般的である。100%の出力を1年間にわたって発揮し続けた場合に設備利用率は100%になる。

 太陽光発電の設備利用率は平均で12%程度しかない。太陽が昇っている間しか発電できないからだ。風力発電は平均風速の大きさによるが、20〜30%程度が標準的である。これに対して小水力発電の設備利用率は70%に達する(図3)。小さな設備で多くの電力を生み出すことができるわけだ。

図3 小水力発電と太陽光・風力発電の比較。出典:環境省

 国内には至るところに水の流れがある。この貴重な再生可能エネルギーを活用する取り組みは、今後ますます広がっていく。小水力発電を数多く実現することによって、地域単位の電力供給力は確実に高まる。

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